「普通の道」の下に歴史が眠っていた! 全国23都道府県の”ウラ名所”をめぐる暗渠観光ガイド
「観光旅行に行ってない」——そう言いながら、青森にも軽井沢にも金沢にも台湾にも足を運んでいる著者がいる。
彼らが向かう先は名所旧跡ではない。かつての川や水路の痕跡、「暗渠(あんきょ)」を探しに行っているのだ。
「街の陰に隠れ、観光地だとは一見思えない」——それが暗渠の正体だ
『全国暗渠観光ガイド 街と歴史のウラ名所めぐり』(学芸出版社)は、2人の暗渠マニアが全国23都道府県・31事例を歩き尽くした書評記事待望の一冊だ。
著者は高山英男と吉村生。2人はユニット名「暗渠マニアックス」を名乗り、これまでも共著で暗渠の魅力を発信し続けてきた。
暗渠とは、かつて街に存在した川や水路の流れを地下に移したもの。あるいは、地下の水の流れすら失われた川跡・水路跡のことも含む。
一見すると何の変哲もない「普通の道」だ。しかしその下には、街の歴史と人々の暮らしが丸ごと眠っている。

「はりまや橋」も「ドブ板通り」も、実は暗渠だった!
本書はまず、「実はもう観光資源になっている『名所暗渠』」から始まる。
高知市の「はりまや橋」、横須賀市の「ドブ板通り」——どちらも名の知れた観光スポットだ。しかしその正体が暗渠に関わるものだと知っている人は、果たしてどれほどいるだろうか。
知名度ある場所に潜む”水の記憶”。それを発見したときの興奮は、本書を読むだけでありありと伝わってくる。
続くセクションでは「観光地のウラを行く『穴場暗渠』」として、鎌倉・京都・大阪・奈良・小樽など、有名観光地の静かな裏側に流れる暗渠を紹介する。
「大仏見ずとも橋を見よ」——鎌倉の章につけられたこの見出しが、すべてを物語っている。
観光地でなくても、行きたくなる
さらに本書が熱を帯びるのが、「観光地でなくても行きたくなる『日常暗渠』」の章だ。
福岡市の「輝く暗渠黄金地帯」、土浦市の「街の栄枯盛衰を見守る暗渠」、徳島市の「塩田が作った暗渠の迷宮」——いずれも、誰もが観光スポットとして名指しするような場所ではない。
しかし著者の目を通せば、日常の風景がざわざわと動き出す。
「いつも自分が暮らす街や訪れる理由なんてないと思っていたとなり街であっても、気づかぬ魅力があるものなのだ」という本書の言葉は、読者を静かに、しかし確実に背中から押し出す。
街あるきの次のキーワードは「Find」だ
著者・高山英男は「はじめに」で、街あるきの歴史を鮮やかに整理している。
「Enjoy」の時代(バブル崩壊後の散歩ブーム)、「Learn」の時代(『ブラタモリ』が切り拓いた街学び市場)、そして次に来るのが「Find」だ、と。
自分の興味の赴くまま、まだ誰も気づいていないものを見つけ出す街あるき。暗渠は、その「Find」の入口として最高の素材なのだと本書は説く。
オーバーツーリズムが各地で問題となる今、混雑した名所に疲れた旅人にとっても、本書は確かな羅針盤になるはずだ。
2人の”暗渠マニア”とは何者か
著者について少し触れておこう。
高山英男(たかやま・ひでお)は栃木県生まれ。自称「中級暗渠ハンター」。本職は会社員で、日本マーケティング協会マーケティングマスターでもある。2009年6月に「自分の心の中にある暗渠」に気づいたことをきっかけに暗渠にハマり、以降、分類・分析を軸に暗渠のフレームワークを構築し続けている。日本文藝家協会会員。
吉村生(よしむら・なま)は山形県生まれ。「深掘型暗渠研究家」を名乗り、本業の傍ら暗渠探索・ツアーガイド・講演など幅広く活動する。郷土史を中心とした細かい情報を積み重ね、暗渠の持つ「ものがたり」に耳を傾けるスタイルが持ち味。高山との共著に『暗渠バラダイス!』(朝日新聞出版)、『暗渠マニアック! 増補版』(筑摩書房)などがある。
この2人がタッグを組んで書き上げた本書は、全国各地の暗渠を豊富な写真とともにA5判192ページ・オールカラーで収録した、文字通りの「観光ガイド」だ。
見慣れた街が、一瞬でタイムスリップする
本書の編集担当者はこう書いている。
「小さな路地や『普通の道』を深掘りすれば、暮らしの中に川があった時代に一気にタイムスリップ」——と。
読み終えた後、きっと足元の「普通の道」が違って見えてくる。
あなたが毎日歩くその道にも、暗渠が潜んでいるかもしれない。
書誌情報
-
書名:全国暗渠観光ガイド 街と歴史のウラ名所めぐり
-
著者:高山英男、吉村生
-
発行:学芸出版社
-
発行日:2026年3月5日
-
体裁:A5判・192頁(オールカラー)
-
定価:本体2,300円+税
-
ISBN:978-4-7615-2964-2




