国内旅館の5割「AI引用ゼロ」 生成AI検索で可視性に大きな格差


 株式会社Terrace Rootsは5月1日、国内主要温泉地5エリアの旅館30施設を対象に、生成AI3媒体における引用状況を調査した結果を発表した。調査対象の30施設のうち15施設(50.0%)が、ChatGPT・Perplexity・Google AI Modeのいずれにおいても一度も引用されない「AI引用ゼロ施設」であることが判明した。

 全施設の平均引用率は20.6%にとどまった。エリア別では金沢・草津で「AI引用ゼロ施設」が83%に達した一方、京都・湯布院では17%にとどまり、エリア間で約5倍の差が生じている。

「AI引用ゼロ施設」が5割

 調査対象は、京都・金沢・箱根・湯布院・草津の5エリアから選定した旅館30施設。外資系ホテル・シティホテルを除き、規模・価格帯・知名度のバランスを考慮して選んだ。

  調査方法は、ChatGPT・Perplexity・Google AI Modeの3媒体に対し、各6クエリ(合計18回の引用機会)を投じるものだ。「AI引用ゼロ施設」とは、この18回の引用機会において一度も施設名がAIの回答内に登場しなかった施設を指す。施設の知名度や予約状況とは独立した、AI上の可視性に関する指標だ。

結果として、30施設中15施設(50.0%)がAI引用ゼロ施設と確認された。

エリア間格差は約5倍

 エリア別の内訳では、金沢・草津では6施設中5施設(83%)がAI引用ゼロ施設の状態にあった。一方、京都・湯布院ではAI引用ゼロ施設は6施設中1施設(17%)にとどまり、AI上での可視性が比較的高い水準にある。

 引用率TOP5には老舗・高級旅館が上位を占めた。1位の草津温泉 奈良屋は、3媒体18回の引用機会のうち16回引用され、突出した可視性を示した。草津エリア全体の平均引用率が14.8%であるにもかかわらず、特定施設に引用が集中する構造が観察されている。

媒体別では「Google AI Mode」が最多

 媒体別の引用傾向では、Google AI Modeが引用施設数・引用密度ともに最も高かった。ChatGPT・Perplexityは「特定施設に引用が集中する」傾向が見られた。

英語クエリでの引用は限定的

 各エリアで実施した英語クエリ(”Kyoto best ryokan”・”Yufuin best ryokan”等、計5クエリ)における引用施設は、日本語クエリと比較して著しく限定的だった。インバウンド需要を見越した施設整備が進む一方、AI上での海外旅行者へのリーチは日本語クエリ以上に偏在している実態が浮かび上がった。

調査が示す3つの示唆

 同社は調査結果から、3つの示唆を挙げている。

 第一に、「検索1位」と「AI引用」は別物だという点だ。従来のSEO上位表示とAI引用には強い相関が見られず、SEOで上位を取っている施設でもAIに引用されないケースが多数確認された。

 第二に、第三者からの言及量、特に専門家の評価がAI引用を左右するという点だ。引用率上位は老舗・高級旅館が占めており、メディア記事・観光ガイド・書籍・業界専門家による評価など、AIが参照しやすい第三者情報が蓄積されている施設ほど引用される傾向が確認された。とりわけ、専門家・編集者・ジャーナリストといった権威性のある第三者からの言及は、AIが回答の根拠として優先しやすい情報源と考えられるとしている。施設自身が情報発信していても、こうした外部からの評価・言及がなければAIには届きにくい構造が示唆されるという。

 第三に、エリア間の可視性格差は「情報密度の差」と一致するという点だ。京都・湯布院(引用ゼロ17%)は観光メディアでの取り上げ頻度が高い一方、金沢・草津(同83%)は施設単位での第三者言及が相対的に少ないエリアであり、AI上の可視性とエリアの情報密度には強い関係性が示唆されるとしている。

業界内に「明確な温度差」

 同社代表取締役の松井拓未氏は、設立以降、複数のホテル・旅館経営者および自治体観光部門との打ち合わせを重ねてきた。その中で業界内に「明確な温度差」が存在することが見えてきているという。

 松井氏によれば、早期に動いている施設はすでにGEO(生成AIエンジン最適化)への危機感を持ち、自社情報の整備や第三者メディアへの露出強化を始めている。一方、様子見の施設は、他施設の取り組み状況や成果を見てから判断するという姿勢にとどまっているという。

 複数の自治体観光部門との意見交換の中でも、生成AIへの対応をどう進めるかが繰り返し論点に上がっており、宿泊施設単位の課題から地域単位の観光戦略へと議論が広がりつつあるとも述べている。

AIに引用されるためには

 同社はFAQとして「AIに引用されるためには何が必要か」という問いに対し、「本調査からは、第三者メディア・観光ガイド・書籍などの『外部情報の蓄積量』がAI引用と相関する傾向が確認された。施設の公式情報整備(構造化データ・公式サイトの最新化)に加え、第三者からの言及を増やす施策が引用率向上に寄与すると考えられる」と回答している。

 また、金沢・草津でAI引用ゼロ施設が多い理由については「単一の要因ではなく、エリアの観光メディア露出量、英語圏での認知、Wikipedia等の構造化情報整備状況などが複合的に影響していると考えられる。本調査では因果関係までは特定していないが、追加調査を通じて検証していく予定だ」としている。

代表・松井氏のコメント全文

 松井氏は今回の調査結果について、次のようにコメントしている。

 「本調査でAI引用ゼロ施設が5割に達したことは、宿泊業界がSEO中心の情報設計から、生成AIを前提とした情報設計(GEO)へ移行する転換点に来ていることを示すデータだと受け止めています」

 「注目すべきは、引用される施設と引用されない施設の差が『公式サイトの完成度』ではなく『第三者からの言及、とりわけ専門家による評価の蓄積量』に強く依存している点です。生成AIは公式情報よりも、権威性のある第三者──業界の編集者・ジャーナリスト・専門家──による言及を優先的に引用する傾向があり、これは従来のSEO対策とは異なるアプローチを必要とします」

 「ホテル支配人として現場にいた経験から申し上げると、『SEOで1位を取れているのに予約が増えない』という相談はこの数年で確実に増えています。今回の調査は、その背景にAI引用の不在という構造があることを定量的に示すものです。エリア間で5倍の格差が生じている事実も含め、宿泊業界全体で『AI上の可視性』を経営指標として捉え直す時期に来ていると考えています」

 松井氏はLinkedIn Top Voice 2025(旅行・観光部門)、Favikon Top 200グローバルクリエイターの認定を受けており、元ホテル支配人でもある。

調査の背景と次回予告

 同社が今回の調査を実施した背景には、旅行者の宿泊施設選定における情報源が、Google検索やOTA(オンライン旅行代理店)から生成AIへと拡大しつつあるという現状認識がある。

 生成AIは検索結果のリンク群ではなく要約された回答を提示するため、AIに引用されない施設は旅行者の比較検討の対象に上がりにくい構造が生まれている。しかし、自施設が生成AI上でどのように扱われているかを定量的に把握している宿泊事業者はほとんど存在しないとして、本調査を宿泊業界における生成AI上の可視性の現状を把握する一次データとして実施した。

 今回は「旅館編」として5エリア30施設を対象としたが、続編として東京・大阪・福岡・札幌・名古屋等の主要都市を対象にした「シティホテル編」を準備中だ。旅館とシティホテルでは情報発信の構造が大きく異なるため、AI引用率にも差異が予想されるとしており、配信時期は別途告知するとしている。

 
 
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