井上氏
行政と民間の“間”をつなぎ地域観光を前に進める
地域観光を前に進めるために今必要なのは、行政か民間かという立場の違いを論じることではなく、その違いを理解した上で、どう力を組み合わせるかを考えることだと思います。観光は、行政の支援だけでも、民間の努力だけでも成り立ちません。行政は公平性や継続性、説明責任を担い、地域全体を見渡しながら基盤を整える役割を持っています。一方で民間は、顧客目線で商品を磨き、販路を開き、収益につなげる実行力を持っています。どちらも欠かせません。
ところが現場では、この両者の違いが十分に共有されないまま連携が求められるため、摩擦が起きます。行政は予算を適正に執行したかで評価され、民間は売り上げや利益が出たかで判断されます。つまり、同じ事業に関わっていても、見ている時間軸も成功の基準も違うのです。ここを理解しないままでは、連携は形だけで終わってしまいます。
私は、地域観光において本当に必要なのは、この間をつなぐ役割だと考えています。行政の言葉を現場や市場に伝え、民間の知恵や感覚を地域の仕組みに翻訳し、継続できる形に整えていく。その役割を担うのがDMOです。DMOは単なる調整役ではなく、行政と民間の間に立って、地域全体を前に進めるための実働組織であるべきです。
秩父地域でも、1市4町が連携しながら観光地域づくりを進めています。広域連携、ブランドづくり、滞在促進、受け入れ環境整備など、どれも一つの組織だけでは成し遂げられません。だからこそ、違いを対立にせず、役割を整理し、共通の目的に向かって動ける仕組みが必要です。観光は交流人口を増やすだけの政策ではなく、地域の誇りを見つめ直し、産業を横断して経済を循環させ、次の世代につないでいく営みです。そのためにも、行政と民間が相互理解を深め、融合を設計することが、これからますます重要になると考えています。
私はこれまで、行政、観光協会、道の駅運営、そして地域連携DMOと、異なる立場で観光に携わってきました。その経験から言えるのは、観光は理屈だけでも、気合いだけでも進まないということです。立場が違えば、見える景色も言葉も違います。だからこそ、相手を変えようとするのではなく、違いを前提に橋をかける人材と組織が要るのだと思います。
その積み重ねが、地域にとって無理のない、持続可能な観光地域づくりにつながると考えています。私はその実装役でありたいと思います。これからも。

井上氏




