若年層の海外渡航促進と地方誘客を次年度の重点テーマに
公益社団法人日本観光振興協会は5月7日、令和7年度の「双方向交流促進委員会」の議論を取りまとめた報告書を作成し、公開した。同委員会で、観光産業が抱える課題について1年にわたり調査・検証および討議を行った内容を取りまとめた。
委員会は旅行会社、宿泊・交通事業者、観光団体等約20名で構成。令和7年度のテーマは「地域活性につながる双方向交流の拡大」、キーワードは「アウトバウンド復活へ」と設定された。令和7年8月から令和8年3月にかけて計4回の会議が開催され、外部講師による講演、地域ヒアリング、香川県への現地視察を経て年間活動を締めくくった。
2024年のアウトバウンドはインバウンドの約35%
第1回委員会(令和7年8月20日)では、トラベルボイス株式会社代表取締役社長CEOの鶴本浩司氏が「双方向交流『2.0』を目指して〜これまでの経緯から打ち手まで〜」と題して講演した。
鶴本氏によると、日本のインバウンド政策は2003年開始の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を起点とし、当初約20億円だった予算が安倍政権・菅政権期に約10倍規模に拡大したことが大きな転換点となった。日本人の海外旅行者数とインバウンド旅行者数が逆転したのは2015年で、同年のアウトバウンドは1,621万人、インバウンドは1,974万人だった。
2024年のインバウンド旅行者数は約3,687万人に達し、その約3分の2を東アジア市場(韓国、中国、台湾)が占めている。一方、同年のアウトバウンド旅行者数は約1,300万人にとどまり、インバウンドに対して約35%の水準だ。主な渡航先は韓国、アメリカ、台湾、タイ、ベトナムとなっている。
日本人の年代別出国率では、20代が21.9%と最も高く、「若者が海外旅行に行かなくなった」という一般的な認識とは異なる実態が示された。
日本人のFIT海外旅行者数が急増しにくい要因として、鶴本氏は円安の進行、ビッグマック指数の上昇、国際航空券価格の高騰といった構造的要因を挙げた。アウトバウンド促進に向けた戦略としては、地方発着国際線の直行便最大化、音楽フェスや美術展・マラソン大会等の目的型旅行の訴求、教育交流プログラムの拡充、取引先企業との交流強化、姉妹都市を活用した「関係人口」の仕組みづくりが有効との考えが示された。
質疑応答では、20代の出国率が高い理由についてLCCを活用したショートホールや推し活・イベント目的の渡航が多いと想定されることが述べられた。また若年層の渡航抑制要因として奨学金返済への不安が指摘された場面では、鶴本氏は「資金に困っている層に行ってもらうことは難しいため、割り切って世帯所得に余裕のある層にターゲットを絞るべき」との見解を示した。
鳥取県が語る「オール鳥取」の台湾戦略
第2回委員会(令和7年10月10日)では、鳥取県輝く鳥取創造本部観光交流局国際観光課課長の谷本敦氏が「2025日台観光サミットin鳥取」について講演した。
鳥取県には米子鬼太郎空港と鳥取コナン空港の2空港があり、米子鬼太郎空港ではソウル便(週5便)および台湾便(週2便)が運航している。コロナ前に運航していた香港便・上海便は現在運休中で、再開に向けた調整が続いている。
鳥取県と台湾の交流は1997年の梨の穂木輸出を契機に始まり、台中市との友好交流協定のほか、県内市町村や鉄道会社間でも多様な交流協定が結ばれている。台湾ランタンフェスティバルへの出展(2015年〜)や鳥取しゃんしゃん祭への台湾団体参加(2024年〜)など、双方向での祭り交流も展開。チャーター便は毎年実施しており、2019年には過去最多となる37往復の連続チャーター便を就航させた。
タイガーエア台湾との覚書締結(2023年9月)を経て、日台観光サミットの開催に立候補し「オール鳥取」での受入体制を構築。サミット開催(5月29日)に合わせて米子〜台北直行便が就航した。就航直後の搭乗率は低調だったが、8月以降は改善傾向を示し、9月速報値ベースで約84%に上昇した。
県内小中学校の給食で台湾料理を提供し、台湾有名ホテルシェフによる料理講習会を実施するなど、食を通じた交流施策も展開。台中市の高級スーパー等での鳥取物産展開催も計画されており、観光に加えビジネス交流も活発化している。
鳥取県のパスポート取得率は9%で、新規取得者に1人あたり3,000円を補助し、5名以上の国際線利用グループには1人あたり3,000円の支援を実施していることも紹介された。
高松空港、国際線旅客数は前年比1.9倍——2027年春グランドオープンへ
同会議では、香川県、倶知安観光協会、東北観光推進機構、観光庁の取り組みについて事務局がヒアリング内容を報告した。
香川県の報告では、四国4県と岡山県で約400万人規模のマーケットを有し、高松空港から2時間圏内で周遊可能な地理的特性が紹介された。高松空港は2018年の民営化以降、県・空港会社・高松市が連携して誘致活動を展開。台中線新規就航、香港線増便、上海線復便、ソウル線増強により国際線利用者数は大幅に増加し、2024年の国際線利用者数は前年比1.9倍となった。令和9年度春のグランドオープンを目指す段階的な空港改修も進行中だ。
一方、香川県のパスポート保有率は7%まで低下しており、取得支援策を実施予定としている。
ニセコエリアを管轄する倶知安観光協会からは、インバウンドが欧米人中心で6割を占め、冬季と夏季の誘客格差が課題であることが報告された。宿泊税収を住民1人あたりに換算すると、京都市3,741円、東京都310円、米フロリダ州オーランドが38,000円に対し、倶知安町は37,000円と高水準であることも示された。タクシーに導入しているGOアプリで調査したところ、外国人ユーザーが88%を占め、来訪者は当初把握していた72か国から実際には85か国に上ることが判明した。
東北観光推進機構の報告では、アドベンチャートラベルの推進が紹介された。アドベンチャーウィーク東北として海外旅行会社12社、メディア3社を招聘するファムトリップを実施。東北エリアのガイドの登録・リスト化(約100〜150名)を行いレベル別研修を実施し、スルーガイドの育成によって八戸〜宮城10日間1人100万円という高付加価値商品の造成にもつながっているとした。国別インバウンド数では中国・台湾・香港3国で80%を占め、うち台湾が50%を占める。
観光庁からは「海外教育旅行の促進及びプログラムの付加価値向上に関する事務局運営業務」が紹介された。旅行会社と学校が連携してオリジナルプログラムを造成する仕組みで、令和5・6年度は各10数件の応募から9件を採択、令和7年度は30件超の応募があり同様に9件を採択した。プログラム開発費の上限はアジア地域が100万円、欧州地域が150万円。一般的な語学研修にとどまらず、建築、災害復興、伝統文化継承などテーマ性の高いプログラムを重視している点が特徴だ。令和7年度の採択9件は以下のとおり。
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フィリピン:ストリートチルドレン支援現場で学ぶ「産業福祉」実地研修(東武トップツアーズ仙台支店)
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モンゴル:STEM交流プログラム(東武トップツアーズ札幌支店)
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チェコ:海外で日本を学ぶ〜日本語・日本文化から始める海外研修の形(株式会社エモック・エンタープライズ)
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マレーシア:多文化理解×ものづくり×キャリア形成の『体験型』プログラム(株式会社イクシル)
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インド:新しい時代の未来を創造する旅!〜インドの精神・哲学から、創造性・柔軟性・余白を感じる次世代スタディツアー〜(カモメツーリスト株式会社)
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台湾:建築で未来を創る〜台湾で学ぶ災害復興と伝統継承の実践型グローバル教育(くま川鉄道株式会社)
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タイ:微笑みの国で拓く、Wellbeing—探究の旅〜自由研究で見つける、私と世界のつながり〜(株式会社JTB茨城南支店)
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米国:離島と世界を繋ぐ〜歴史から未来を創り人財を育む教育旅行プログラム〜(株式会社JTB教育第二事業部)
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ドイツ:Think globally. Act locally!『グローカル人財育成プログラム』〜職業観を通して持続可能な地域社会へ〜(株式会社JTB佐賀支店)
これらのヒアリング報告を受け、高松空港が本年度のテーマ「地域活性につながる双方向交流の拡大」・キーワード「アウトバウンド復活へ」に符合するとして、香川県視察を全会一致で決定した。
香川県視察——民泊受入と台湾教育旅行の現場
第3回委員会(令和8年1月30〜31日)は、香川県高松市・綾川町での現地視察として実施された。
高松空港株式会社代表取締役社長の小幡義樹氏から運航状況の説明が行われた。2024年度の国内線旅客数は213万人で過去最高を更新。2025年度計画164万人に対し実績は172万人程度の着地見込みとなっている。国際線では台中線、香港線が継続運航する一方、ソウル線は2025年1月3日に運休となった。国際線旅客数は計画55万人に対し約51万人見込みだ。
地元金融機関調査では、国際線定期路線による経済波及効果は約217億円と試算されている。2011年頃からLCC誘致を積極推進し、2011年時点では外国人延べ宿泊者数の全国順位が40位だったものが、2024年には19位に改善した。
2027年3月のグランドオープンに向けた国際線ターミナルの増改修工事では、駐機場増設による同時間帯での国際線3便受入れへの対応、チェックインカウンターの拡充、搭乗待合室の拡充と出発ゲートの増設、到着エリアの拡充が図られる。
香川県交流推進部空港振興課副課長の吉井寿美子氏からは、2024年1〜10月の外国人延べ宿泊者数が約90.8万人で過去最高に達し、全国順位は19位(四国内第1位)、2011年比で約23.7倍になったとの報告があった。宿泊者の約80.5%が東アジア市場で、欧米豪市場については高付加価値層をターゲットとしたインセンティブツアーの誘致も行っている。受入環境整備として、高松駅・高松空港に観光案内所、9言語対応コールセンターを設置し、地域通訳案内士の育成も進めている。
アウトバウンド促進については高等学校教員向けに海外修学旅行セミナー(台湾・韓国)を実施。路線によっては日本人搭乗率が15〜30%程度にとどまる現状もあり、パスポート取得支援キャンペーンを高松空港と連携して実施している。「教育旅行が有効な突破口であると考えており、文化交流・経済交流・スポーツ交流の活用も同様だ。市場としては、若年層への関心醸成が重要である」と吉井副課長は述べた。
屋島山上交流拠点施設「やしまーる」の館長・中條亜希子氏からは、2022年8月のオープン以降、期間限定の夜間ライトアップやプロジェクションマッピングを実施し夜間の訪問客が増加していることが紹介された。屋島は昭和9年に瀬戸内海国立公園および国の史跡・天然記念物に指定されており、山上からの夕景・夜景は「日本の夕陽百選」「夜景100選」「日本百名月」に選ばれている。
台湾ホームステイ受入れについては、公益社団法人日本観光振興協会四国事務局の細松香里氏が報告した。四国地域では2023年度より台湾からの高校生を対象とした教育旅行受入事業を本格開始。2019年には日本の組織として初めて台湾の教育交流連盟と包括連携協定を締結している。
香川県では2024年12月に「Oidemaiさぬき田舎体験推進協議会」を設立。高松市、坂出市、丸亀市、綾川町の農家民宿・民泊8軒で組織するこの協議会が、台湾からの教育旅行に対応する。民泊体験料を学生1人あたりで設定し受入家庭へ還元、事務局は体験料の約1割を運営費として充当する持続可能な運営モデルを構築している点が特徴だ。台湾教育部の補助制度改正により、従来の高校生に加え小中学生まで対象が拡大されており、今後の受入増の可能性が高いとされている。
委員からは「帰国後も学生と家庭間で継続して交流が続いており、将来的にリピーターにつながる」との気づきが共有された。また言語の壁が想定より小さく、清潔・安心・価格面でも評価が高いことが現地訪問を通じて確認された。
視察の成果として委員会は、①教育旅行の「国家投資」化(受入と派遣の一体的制度拡充)、②受入環境の標準装備化(多言語情報発信・ガイド育成・コールセンター等の体系整備)、③地方空港戦略の高度化(チャーター→定期化の手順化と自治体・DMOとの一体的実行)、④広域連携モデルの制度化(四国・瀬戸内での面的受入の標準化)、⑤体験価値の最大化とリピーター化設計(夜間活用・ガイドによる感動体験の創出)、⑥受入組織のモチベーション維持(担い手づくりの仕組み整備)の6点を施策の方向性として整理した。
この現地視察の内容はプレスリリースとして発信され、東洋経済オンライン、日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞、TBS NEWS DIGをはじめ合計33メディアへの掲載が確認された。
全委員が総括——「若年層の海外渡航」を次年度の柱に
第4回委員会(令和8年3月4日)では年間総括として全委員が発表を行った。
委員長を務めた日本航空株式会社執行役員の西原口香織氏は「今年度はインバウンド中心だった議論に加え、アウトバウンドの重要性についても改めて議論を深めることができた。特に若年層が海外に出て多様な経験を得ることは、将来の日本の国力や観光産業の発展にもつながる重要な要素だ」と述べ、来年度の議論の方向性として、①アウトバウンドにおける若年層の海外渡航促進、②インバウンドにおける地方誘客の推進を中心に据える考えを示した。
全日本空輸株式会社の遠山雄一氏は、アウトバウンドの重要性への認識が委員会を通じて徐々に共有されてきたと評価しつつ、「来年度は特に若年層の海外旅行促進を重要なテーマとしてさらに議論を進めていきたい」と語った。
一般社団法人日本旅行業協会の松岡正晴氏は、2024年度のパスポート取得率が17.3%、2025年度は18.3%とわずかに改善したものの地域差が大きいと指摘。「2026年7月からパスポート手数料が引き下げられる予定であり、取得促進キャンペーンなどと連動した取り組みを検討している」と述べた。一方で「国際観光旅客税の引き上げなど海外旅行にかかる費用増加の影響もあるため、税収の活用方法についても検討が必要だ」とした。
株式会社オリエンタルランドの吉澤弘行氏は、東京ディズニーリゾートでの事例として「若い時期に来園した人ほど生涯来園回数が高いという傾向があり、若年層への体験提供の重要性を実感している」と述べ、教育旅行を活用した海外体験の創出が有効との考えを示した。「Z世代は無料コンテンツから興味を持ったものに課金する傾向があるため、パスポート取得費用などの初期負担を軽減する施策は有効である可能性がある」とも語った。
東武トップツアーズ株式会社の三上佳博氏は、香川県視察での讃岐うどん体験を振り返り「施設や体験そのものだけでなく、地域の人々との交流や会話の中に観光の魅力がある」と述べた。日本人のパスポート保有率が約17%と低く、「将来的には今の小学生や中学生が社会の中心となる20〜30年後の観光産業を見据え、ツーリズムのあり方や人材育成を長期的な視点で考えていく必要がある」と指摘した。
一般社団法人東北観光推進機構推進本部長の渡辺厚氏は「委員会での議論が次年度の予算編成や観光関連計画の中でアウトバウンド施策として位置づけられるなど、政策に一定程度反映されている」と評価。「今後も本委員会だけで完結するのではなく、経済団体や地方自治体、全国知事会など関係機関と連携しながら同様の提言を継続的に発信していくことが重要だ」と述べた。
日本政府観光局の赤司真紀氏は、全国10都市での対面研修会開催や、今年度から開始した広域連携プロモーション事業(広域連携DMO・自治体等と協力した海外メディア招請・海外向け広告発信)を報告。「来年度もこれらの取り組みを継続するとともに、海外市場の多様化への対応を重要な柱として進めていく」とした。
株式会社JR東日本びゅうツーリズム&セールスの大友信介氏は「インバウンドとアウトバウンドの双方を考える必要があり、特に地域間格差の解消や観光客の分散が重要だ」と強調。近畿日本ツーリスト株式会社の宮居智哉氏は、薄利多売型のビジネスモデルには限界があるとして「スポーツ、趣味、文化などの目的が明確であれば、多少価格が高くても旅行者は参加する傾向がある」とし、目的型・テーマ型観光の充実が今後の方向性の一つになるとの考えを示した。
中部国際空港株式会社の永江秀久氏は「国や自治体の施策を待つだけではなく、民間としても主体的に取組みを進めていく必要がある」と述べた。株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベルの人見昌宏氏は、観光ガイドの人材不足・高齢化が地方観光拡大における大きな課題であることを指摘した。
公益社団法人日本観光振興協会常務理事の檜垣克己氏は、協会が「観光産業の基幹産業化」をビジョンとして掲げていることを改めて示し、国内観光促進委員会でのオーバーツーリズム対策や人材育成委員会での若手経営者向けセミナーなど他委員会との連携を通じ、来年度の活動につなげていく方針を述べた。
令和8年度テーマ決定——インバウンドは地方誘客、アウトバウンドは若年層促進
年間の討議を踏まえ、令和8年度の委員会テーマおよびキーワードが決定した。
テーマは令和7年度と同じ「地域活性につながる双方向交流の拡大」を継続。キーワードはインバウンドを「地域(地方)誘客」、アウトバウンドを「若年層の海外渡航(旅行)促進」と設定した。
報告書は「円安・物価高に起因する経済負担はアウトバウンド復活に影響の大きなネガティブ要因となっている。アウトバウンド復活には渡航動機の創造対策が急務であり、教育旅行を含む若年層の海外渡航促進は、インバウンド・アウトバウンド双方の促進に好影響を与えると考えられる」と位置づけている。
また、令和6年度委員会で討議・検討された対策案については、アウトバウンド旅行者数の回復、インバウンドの地方分散、国際観光交流の促進(若者国際交流・姉妹都市交流等)の3項目が観光庁への提言として提出済みとなっており、パスポート取得費用支援や若年層への啓発、地方空港のチャーター便支援、姉妹都市等における市民交流強化、中高生の海外派遣強化、修学旅行費用の上限撤廃などが継続課題として整理されている。




