「単なる休息ではなく、次に進むために立ち止まる時間」――老舗旅館・平野屋が芝浦工大と”サバティカル体験”を共同設計


リ・デザインした客室冊子

 平野屋は4月14日、芝浦工業大学デザイン工学部・蘆澤雄亮教授ゼミの学生とともに約2年にわたり進めてきた共同プロジェクトの一環として、アメニティ空間および客室冊子のリ・デザインを完了し、運用を開始したと発表した。

 愛知県蒲郡市・三谷温泉に位置する老舗旅館「平野屋」(株式会社平野屋)が、産学連携による滞在価値の再設計に乗り出した。

「平野屋いきもの図鑑」設置の様子

「サバティカル」を旅館滞在に重ねる

 平野屋が提案する「サバティカル」とは、大学教授などが研究や教育の節目に得る長期休暇「サバティカル・リーブ(Sabbatical Leave)」に着想を得た考え方だ。

 ただ休むための長期休暇ではなく、次の課題解決や新たな創造に向かうために、いったん立ち止まり、自らを見つめ直し、思考を深め、視野を整え、再び前へ進むための充電期間を意味する。平野屋ではこの考え方を旅館滞在に重ね、旅を通じて日常を深く見つめ、人生を振り返り、自分自身のこれからを静かに考える時間として提案してきた。

約2年の共同プロジェクト、その全貌

 本プロジェクトのきっかけは、2024年4月に始動した蒲郡市・株式会社イノベーションパートナーズ・芝浦工業大学による産学官連携の地域創生プロジェクトだ。

 初期メンバーの学生は卒業研究の一環として参加し、約1年間、蒲郡市内に滞在しながら地域との関係構築やヒアリングを行い、体験価値の創出につながるコンテンツ制作に取り組んだ。「サバティカル体験」というコンセプトは、この活動の中で言語化された。

 その後、2025年4月より平野屋と芝浦工業大学の共同研究プロジェクトへと進展し、現在もなお取り組みが続いている。

生まれた成果物

 本取り組みで生まれた主な成果は以下の通りだ。

  • 旅館のコンセプトを伝え、館内回遊を促すパンフレット「平野屋の沁み方」

  • 平野屋で楽しめる体験を可視化した「平野屋の沁み方マップ(横断幕)」

  • 館内の置物を再編集した「平野屋のいきもの図鑑」

  • 客室冊子の提案

  • アメニティ空間の設計

 2025年10月には「平野屋の沁み方マップ(横断幕)」と「平野屋のいきもの図鑑」が完成し、平野屋に設置された。

 今回のリ・デザインでは、この思想を理念にとどめず、館内での行動や発見、滞在中の感情の流れを含めた体験として可視化することを試みた。

「平野屋の沁み方マップ」製作の様子

館内で提供される「サバティカル」体験

 平野屋の館内マップでは、館内コンテンツが「感受」「風土」「記憶」の三つのワードで分類されている。

 具体的には、「さがしもの」をテーマに選書された本が立ち並ぶ「HIRANOYA-library」、一文字一文字に込められた想いを未来へ送る「時手紙」体験、5・7・5・7・7の形式で気持ちや情景を詠む「短歌体験」などが用意されている。

 また、豆を挽く音・淹れる香り・苦味とうま味を五感で楽しむ「珈琲コーナー」、懐かしい音楽から今の音楽まで耳で楽しむ「レコード」、そして「半分人工、半分自然の空間で心と体がととのう」とされるサウナも体験コンテンツの一つだ。

 コワーキングスペースも館内に設けられており、旅館という非日常の空間で多様な過ごし方を選択できる設計となっている。

リ・デザインしたアメニティ空間

平野屋代表・平野寛幸氏のコメント

 平野屋 代表取締役社長の平野寛幸氏は、今回のプロジェクトについて次のように述べた。

 「芝浦工業大学 蘆澤雄亮教授ゼミの学生の皆さまとご一緒したこの約2年は、平野屋が大切にしてきた『サバティカル体験』を、空間や言葉、導線として一つひとつ形にしていく時間となりました」

 「旅館の価値は、設備や機能だけでは測れないと考えています。どのような時間が流れ、何を感じ、どのように自分と向き合えるか。そうした目に見えにくい価値を、学生の皆さまが真摯に受け止め、対話を重ねながら具体的な体験へと可視化してくださったことに、深く感謝しています」

 さらに、「平野屋が考えるサバティカルとは、単なる休息ではなく、次に進むために立ち止まる時間です。旅を通じて日常を深く見つめ、人生を振り返り、これからの自分を考える。そのような時間を、これからも平野屋らしい滞在として育ててまいります」と語った。

芝浦工大・蘆澤雄亮教授のコメント

 芝浦工業大学デザイン工学部の蘆澤雄亮教授は次のように述べた。

 「2000年代初頭よりアメリカを中心にデザイン思考(Design Thinking)という言葉が世界中を席巻し、これに伴いデザインの役割も徐々に変化しています。これまでは形のある具体的な人工物設計へと落とし込むことが中心的な役割でしたが、昨今では『価値を見出し、それを見える化すること』が使命となってきています」

 「こうした中で平野屋さんと一緒に『価値を見出すこと』に挑戦できているのは、とてもありがたい経験だと心より感謝しています。また、他にも計画中の取り組みも多くあり、今後、平野屋が地域にとり、お客様にとり、もっともっと素敵な場所へと進化することを楽しみにしています」

地域全体の価値創出へ

 平野屋は今後の展開について、平野屋の体験価値の創造だけにとどまらず、三谷温泉、そして蒲郡という地域の魅力を伝える新たな価値創出に取り組む方針を示している。

 創業90年以上の老舗旅館が、大学との協働によって空間・言葉・導線へと思想を落とし込み、地域資源や旅館文化の新たな伝え方を模索する。その取り組みは、知名度ではなく価値で選ばれる温泉地の実現を目指すものだ。

 
 
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