【ちょっとよろしいですか 177】温泉宿の差別化 「温泉」って、おいしい! 山崎まゆみ


 2030年に「温泉文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されることを願い、本連載でも「温泉文化」の魅力を多角的に語ってみたいと思います。

 その第1弾は「温泉って、おいしい」編。

 私よりも、温泉地にお住まいの読者の皆さまの方がよくご存じであろう、温泉の生かし方ですが、まずその熱と蒸気が調理法になります。

 大分県別府に湧く鉄輪温泉の「地獄蒸し」はよく知られた調理法ですが、西郷どんが湯治した鹿児島県指宿の鰻温泉で受け継がれてきたのが「スメ」料理です。源泉から立ちのぼる高温の蒸気を使う料理で、蒸気の中に食材を置いて、ゴザをかける。「スメ」とは鰻地域の言葉で窯を意味するそうです。鰻地域には各家庭にそれぞれ「スメ」があり、鶏肉1羽分を置いておくとほろほろに。骨との身離れもふわっとほどける。卵を1日中置いておくと濃厚なプリンのような風味になるそうです。

 調理法ではないですが、小野小町ゆかりの米沢市小野川温泉は冬季に温泉で豆もやしを栽培します。25センチほどの長い茎にしっかりとした豆が付く。冬に温泉街の食堂でもやしラーメンを注文すると、さっぱりしょうゆ味のスープに豆もやしがどんと乗ってくる。食べ応えあるもやしは、細いちぢれ麺なみの存在感。郷土料理にふさわしい。

 温泉の味そのものはまずいことが多いでしょうか。振り返ると「酸っぱい」「苦い」「辛い」の三重苦を思い出します。

 和歌山県湯の峰温泉の名物「温泉がゆ」は卵色。塩っ気があり、かみしめるとミネラルらしき香ばしさが広がる。そもそも熊野へ詣でる前の「湯垢離場」として栄えてきた湯の峰温泉は、湯に漬かり旅の疲れを取り、温泉で作るかゆを食べて身を清めるのが習わしです。

 前言撤回―。

 温泉はおいしい。

 単純温泉はぐびぐび飲めるおいしさであることを失念しておりました。

 私は下部温泉源泉館の温泉ミネラルウォーター「信玄」を愛飲していますが、これがまたうまい。喉を鳴らしながら飲むのが日課です。ミネラルをバランスよく含んでいるので栄養満点。通称「飲む野菜」と呼ばれ、料理に使えば素材の味を引き出します。古いお米を「信玄」で炊くと、あら、新米のように変身。

 ただその力を最も発揮するのはコーヒーを入れる時だと確信しています。香りや渋みを引き出すからです。

 こうした温泉をユニークな商品にしたのは栃木県塩原温泉「湯守田中屋」の田中祐史さん。ナトリウム・カルシウム―硫酸塩温泉、pH7.2の温泉を活用して、「飲んで食べられる温泉」を考案しました。

 その名も「るるる温泉」。なんと温泉の「粉」なんです。天然温泉100%の硫酸塩泉パウダーで、「飲めば胆汁の分泌が促進され腸の蠕動(ぜんどう)運動を活発にすることが実証されている。糖尿病・肥満症・便秘の改善にも期待」と説明があります。温泉がゆでもよいですし、オススメは温泉湯豆腐。お米がふっくらと炊けるのも特徴だそうです。

(温泉エッセイスト)

 
 
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