フォーラムの様子
地域連携DMOの南信州観光公社(長野県飯田市、高橋充社長)は3月12日、飯田市のシルクホテルで、設立25周年を記念するフォーラムを開いた。記念講演やパネル討論などを通して四半世紀の活動や今後の在り方などを探った。
登壇者
助言者=白澤裕次(阿智昼神観光局社長)▽俵慎一(日本食文化観光推進機構専務理事)▽柏木ちづ子(民宿宮のまえ)▽関島正浩(関島水引店社長)▽斎藤有里(花薫る宿よし乃亭女将)▽高橋充(南信州観光公社社長)▽山下真輝(JTB総合研究所研究理事)▽佐藤啓介(長野県観光機構専務理事)
コーディネーター=藤澤安良(体験教育企画社長)
今振り返る、南信州観光公社の取り組み
■「見るだけ」の観光から脱却、数多くの受賞も
飯田市を中心に、周辺の16市町村と民間企業・団体が共同出資して2001年1月に誕生した官民協働の旅行会社。従来の「見るだけ」の観光から脱却し、南信州の豊かな自然や暮らしそのものを観光資源として活用することで、地域振興を図ることを目指している。
具体的には農家民泊や中高生の教育旅行などの受け入れ。また、地域の人々がガイドや体験指導をする仕組みも作り、数多くの賞を受賞している。
主な受賞歴は次の通り。
オーライニッポン大賞第1回グランプリ賞(03年)▽エコツーリズム大賞第1回優秀賞(05年)▽地域づくり大賞(08年)▽クールジャパンアワード農泊部門(17年)▽日本サービス大賞地方創生大臣賞(20年)▽世界の持続可能な観光地100選(25年)▽サステナブルな旅アワード特別賞(26年)
来賓あいさつした佐藤健市長(南信州広域連合長)は、「南信州地域はこれまで、中高校生の体験学習や修学旅行を中心に大勢受け入れてきた。地元の皆さんの支えがあってこそであり、観光公社の果たしてきた一番の功績だ。25年には『世界の持続可能な観光地100選』に選ばれ、国際的な表彰を受け、世界からも評価される取り組みになってきた」と述べた。
■今後はインバウンドの受け入れにも注力
今後については、インバウンドの受け入れに力を入れ、「観光公社が中心となってリアルジャパンというか、(日本の)日常の暮らしぶりを知ってもらう役割を担ってほしい」と期待した。
また、飯田商工会議所の長坂亘治副会頭は原勉会頭のメッセージを読み上げ、設立25周年を祝った。
このほか、農家民泊やアウトドアアクティビティ、伝統工芸、ガイド、旅館などの部門で活躍した65人に感謝状を贈った。
JTB総合研究所の山下氏「世界に選ばれる目的地に」
記念講演は、JTB総合研究所の山下真輝・研究理事が「南信州における持続可能な観光地域づくりの方向~世界に選ばれるデスティネーションを目指して~」をテーマに話した。要旨は次の通り。

JTB総合研究所の山下氏
■”日本の田舎の希望の星”として称賛 これからは再生型観光の時代へ
私は農家民泊が好きで、泊まる中でいろいろな話を聞いた。学校では無気力な女の子が民泊体験で劇的に変わった。先生が驚いて民宿のお母さんに聞いたところ、寂しそうな目をしていたので、最初にぎゅっと抱きしめたところ肩の力がすっと抜け、みるみる表情が変わっていき、帰るころには別人になったという奇跡のような話がある。体験を実践する民泊の力を認識した。
四半世紀における南信州観光公社の成果は、直接旅行消費額(累計)80億円、地域経済波及効果(同)190億円超、登録農家数520軒超、体験コンテンツ200アイテム、受け入れピーク(08年)6万人・416団体―であり、日本の田舎の希望の星として皆さんの活動があったと思う。
サステナブルツーリズムという言葉があるが、ちょっと古くなりつつあり、世界の観光はいま「リジェネラティブツーリズム」、日本語では「再生型観光」といい、お客さんが来れば来るほど地域がより良くなっていくという動きがある。地域を消費するのではなく、より良い状態に戻して帰る。主役は地域住民であり、地域の価値向上を重視するということ。
いま旅行者はマス観光スポットを避け始めている。混雑・高コスト・画一化した観光地を回避し、「destination dupes」(デスティネーション・デュープス、代替地=人気地の代わり)を選択しつつある。
政府は30年に訪日外国人旅行者6千万人、消費額15兆円の目標を掲げているが、受け入れが追いつかないまま拡大していくと、いろいろな不備やハレーションが起きる。抑制をすることも考えるべきであり、海外は目標を減らし、欧州は住民を守ろうということを重視している。
■「世界に選ばれる」観光地目指し、五つのアップデートを
これからの訪日旅行のキーワードは、「未発見の日本のポテンシャル~知る人ぞ知る、旅の価値~」「新しさと特別感の提供~誰とも違う、自分だけの体験」。知られていないことが価値になり、知られていないからこそ、選ばれる理由があるということ。知られていないということは可能性の原石であり、磨き上げ、どう生かしていくかを考える必要がある。
国内市場も体験消費へのシフトや、関係人口を重視する時代になってきた。南信州の農家民泊とほんものの交流は最強の関係人口創出装置であり、時代の動きに合致している。原点を世界基準にアップデートしてほしい。
南信州への来訪者の約85%が日帰り客であり、県内でも最低レベルの宿泊比率となっている。「いかに泊まる理由を創るか」が最重要テーマといえるだろう。
アップデートについては五つの進化を挙げたい。(1)ターゲット(2)滞在拠点(3)移動(4)発信(5)組織―だ。
例えば、(1)では少子高齢化を背景に、限られたパイの争奪戦になるため、新たな柱であるインバウンド、そして一般旅行の取り込みを図る。(2)は南信州に泊まる理由の創出。地域全体を一つの宿として捉え、夕食や夜のエンターテインメント化で回遊性を高めるとともに、焼き肉日本一のまちであるという武器をアピールする―などだ。
観光公社の次の25年はコーディネーターの役割から、地域の司令塔(DMO)となること。データに基づくマーケティング、高付加価値コンテンツの企画・開発、周辺市町村を巻き込む戦略のけん引―などに努め、選ばれるデスティネーションになること。その実現に向けたキーワードは「スチュワードシップ」。観光を守りながら育てるという意識だ。
パネル討論も実施 南信州の役割と未来で意見交換
パネル討論は「25周年の振り返り、南信州観光公社の果たしてきた役割の確認」「南信州観光公社の未来に向けた行動を!」をテーマに各氏が意見を述べた。
■各氏が振り返る、25年度の感想
藤澤 自己紹介とともに、25年を振り返っての感想は。
白澤 阿智昼神観光局の社長などを務め、南信州観光公社の取締役を兼務している。25年前に観光公社がスタートして取り組んできたことは、世界のスタンダードであり、将来の南信州全体をどう作っていくかということがポイントだという考えで過ごしてきた。

白澤氏
俵 ご当地グルメによるまちおこしの祭典・B―1グランプリに関わり、日常食をブランド化して人を呼ぶことをやってきた。飯田は人口1万人当たりの焼き肉店の数が全国1位で、焼き肉のまちといわれる。日本一というのはプロモーション的に破壊力があり、うまく生かせないかと考え、2位の沖縄・石垣、3位の北海道・北見と一緒に何かやったらどうか、とお話ししたのが印象に残っている。

俵氏
柏木 1998年から農家民泊をしています。毎年来ていただく生徒さんからパワーをもらい、とても励みになります。今度はどんな生徒さんと出会えるのかと期待を膨らませながら受け入れています。
生徒さんからよくお手紙をもらいますが、ここで見たことや感じたことをレポート用紙にびっしりと書いてあり、とても感動します。双方の気持ちがいい環境で生み出されており、常に心が豊かになります。農家民泊の力の強さを実感しています。

柏木氏
関島 飯田水引は市に伝わる伝統工芸で、全国の水引生産量の約7割を占めている。和紙をこより状にしてのりを引き、色付けや飾り付けを施し、贈答品や儀礼の場で用いられている。人と人、心と心を結ぶ意味が込められている。伝統的な結納品だけでなく、水引を用いたアクセサリーやインテリアなど、いまのライフスタイルに合わせた新しい水引の形を提案している。
結んでいる中で、子供さんたちがだんだん楽しくなっているのが手に取るように分かる。家族にプレゼントしたいという子もおり、非常にやりがいを感じてやらせてもらっている。

関島氏
斎藤 天竜水神温泉の旅館「花薫る宿 よし乃亭」の女将をしています。修学旅行生などを受け入れていますが、昔はやんちゃな子が多かった。女子部屋に入り込んだり、旅館を抜け出したり…(笑い)。いまはおとなしい子が増え、聞き分けもいい。半面、子供らしさがなくなってきており、少し寂しさも感じますね。
おじいちゃんやおばあちゃんから教えてもらわなくてもいろいろな情報が手に入る情報過多の時代にあって、観光公社が取り組んでいる民泊事業は生きた学びというか、子供たちが生きていく力を付ける上でとても必要な場であると思います。

斎藤氏
藤澤 佐藤さんは県観光機構の専務理事さんだが、県は南信州にあまり目を向けていない感じがする(笑い)。
佐藤 県庁は北信ばかりを見て、南信を見ていないとよく言われるが、私は愛知の出身で、どちらかといえばなじみが深いのは飯田や木曽といった地域だ。皆さんの仲間でありたいと思っている。「もう少し南をアピールしろ」と言ってくれれば一生懸命、その方向で頑張るつもりだ。

佐藤氏
■伝統の維持や人材確保、鍵は「若い人たちの声」
藤澤 日本人はもともと手先が器用で、ものづくりへのこだわりもあったが、いまはそれも昔の話。アジアの国々にとって代わられつつある。少子高齢化が進み、後継者不足は深刻化している。今後、伝統をどう守っていくかが大きな問題となっている。
関島 伝統工芸文化は後継者をどう育てるのかが大きな問題。一方で、やってみると「こんなに大切なんだ」「こんなに面白いんだ」と気づく。そういう機会をもっと作る必要がある。
体験やワークショップをやっていく中で若い人たちの反応や喜びの声を聞くと、私たちも次につながる楽しみというか、やる気が出てくる。若い人たちにとってもいいきっかけになるのではないか。
柏木 大阪から来た生徒さんの1人が手紙をくれました。「いろいろなことを教えてくれて感謝の気持ちしかありません。面と向かって話すのがこんなに楽しいとは思いませんでした」という内容でした。話すことは当たり前だと思っていただけに驚きました。
人と話すことが苦手な子は確かにいますが、農家民泊を体験して話すことの楽しさを知ってもらえたのはうれしかったですね。
藤澤 そういう機会を作る、提供することはとても大事で、南信州に来て民泊をするという時点で半分以上成功しているのではないだろうか。
白澤 人口減少が進めば未来は非常に暗いものになるが、われわれは観光業者なので、観光によって改善していきたいと思う。
先ほど後継者の話があったが、この問題は真剣に考えなくてはいけない。継続させるのが観光公社の次の仕事という意識で取り組まなければならない。
■多様化する観光 リニア開業で明暗も
俵 「食」が観光の目的となっている。その土地に足を運んで、その土地ならではの味を体験する。世の中が食という部分にかなり踏み込んでいる中で、焼き肉はもちろん、飯田の食は非常にポテンシャルが高い。
斎藤 人手不足もあって、1泊2食付きというスタイルを維持するのはなかなか難しい。そのため1泊朝食付きというスタイルに力を入れてきた結果、これがすごく売れるようになってきました。1泊2食付きはやめませんが、部屋の何割かは1泊朝食のみで対応していこうという方向にあります。
お客さまの夕食をどうするかという問題も出てきますが、周りの飲食店さんと連携して、お店を紹介する。観光公社さんでそこをつなぐようなこともしていただけたらとても助かります。
リニア中央新幹線については飯田停車が計画されており、東京―飯田間は約40分で結ばれます。通過点になることが心配で、南信州に降りてもらって観光をしてもらうのが課題だと思っています。
白澤 私は観光によって地域経済を変えようと思っている。人口減少は自治体の財源に直結する。財源を獲得するためには多くの人に地域に来てもらい、お金を落としてもらわなければならない。観光の果たす役割は大きい。
■県には組織・人づくり支援を期待 「行くべき価値」発信へ
俵 焼き肉の話に戻るが、飯田ならではの焼き肉の楽しみ方、流儀があってもいい。観光客も喜ぶのではないか。
佐藤 県として力を入れてやっていきたいことは人づくり、組織づくりの支援であり、観光公社さんと一緒になって考えていきたい。
山下 先ほどリニア新幹線の話が出たが、誰も降りない新幹線の駅って割とある。行くべき価値がないと人は来ない。逆に不便であっても行くべき価値があると判断すればどんな手段を使ってでも人は来る。観光公社は「南信州は本当に行くに値するところだ」と認識されるようにしなくてはいけない。

山下氏
高橋 旅の喜びを感じられるような南信州にしていきたい。いろいろな方の協力を得て進めてきたが、さらに力をお貸しいただき、南信州の旅文化というものを作り上げていく。

高橋氏
藤澤 グリーンデスティネーション100選に選ばれるなど風が吹いている。風が吹くときは帆をはらなければいけない。その戦略行動がとても重要な時期に来ている。

コーディネーターを務めた藤澤氏




