【観光トレンド8】観光過剰が招く心理的負荷➁ 竹田葉留美


 オーバーツーリズムは日本においても深刻な課題であり、その現状は住民の心理に直接的な影響を及ぼしている。

 SNS投稿の分析によると「大挙」「急増」「多発」「混乱」などの否定的表現が頻出し、特に京都と函館が混雑問題で言及されている。さらに「犯罪」「迷惑」「治安」「乱闘」といった、より深刻なマナー違反や犯罪行為への懸念が表明されている。

 これらの投稿は住民の感情が、物理的な不便さから、心理的な不快感や安全保障上の懸念へと段階的にエスカレートしていることを示唆している。混雑やマナー違反は、住民の「日常生活」の秩序を乱す。この秩序の乱れが、やがて「治安の悪化」という認識につながり、より深刻な心理的ストレスを生み出す。

 こうした状況に対し京都市は、物理的・心理的双方の対策を打ち出している。市バスの混雑対策として観光特急バスの新設を行う一方、マナー啓発動画やチラシなどの心理的アプローチにも力を入れている。

 京都市の調査では、マナー啓発によってマナー違反に関する認知度が向上し、観光客の16%は「行動を改めようと思った」と回答した。これは情報提供が観光客の行動を変容させる契機となることが示唆されている。また住民も、マナー違反への不満が減少し、日常生活への影響が改善され、これらの対策が有効であったことが確認された。関西観光本部制作のマナー啓発動画「Seeing Differently」のように、住民と観光客の視点の違いを提示することは、両者の相互理解を促す心理的効果を持つと考えられる。

 日本の事例は、混雑緩和策だけでなく、マナー啓発や情報提供といった心理的アプローチが、住民と観光客双方の満足度向上に有効であることを示している。特に観光客が事前に混雑を意識することで、満足度への負の影響が緩和されるという知見は、日本のマナー啓発や情報発信の取り組みに理論的な裏付けを与えている。情報提供は、単なるルール周知にとどまらず、住民と旅行者の「相互理解」を促す心理的なクッションとして、摩擦を軽減する上で重要な役割を果たす。

 (八洲学園大学生涯学習学部生涯学習学科教授 竹田葉留美)
        

 
 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒