
山田常務
JTB旅ホ連の総会に際して、JTBの各事業・領域、グループ会社などのトップに2024年度の取り組みの成果、25年度の事業の方向性、旅ホ連との連携などについて聞いた。
全社一体でより戦略的に 日本ファン増やし平和に貢献
――訪日インバウンド事業の2024年度の取り組みは。
「JTBはグローバル事業を全ての事業に関わる領域と位置付け、各事業部門を横断する『訪日インバウンド共創部』を設置し、全社的に訪日インバウンド事業に取り組んでいる。24年度のトピックスを挙げると、JTBグループの中で訪日インバウンド事業に特化して取り組んできたJTBグローバルマーケティング&トラベル(GMT)の『サンライズツアー』が60周年を迎えた。新たな取り組みとして、富裕層に次ぐ規模の純金融資産を持つアフルエント層に向けた『サンライズツアープレミア』を立ち上げた。高付加価値なコンテンツを掘り起こし磨き上げることで、地域への誘客につなげる」
「地域の視点で言えば、山梨県内にインバウンドの周遊の流れをつくる『カイフジヤマロード』構想が成果を上げている。『ツーリストベース河口湖』に続き、富士山の絶景スポット『FUJIYAMAツインテラス』に新たな観光交流拠点『リリーベルヒュッテ』を24年5月に開設した。宿泊の拠点として甲府湯村温泉の開発も推進している。大都市に集中する訪日インバウンドを地方に、また、山梨県内でも河口湖などに集中する訪日インバウンドを県内各地に分散させ、エリア全体を豊かにすることを目標にしている」
「クルーズ船のエクスカーション(寄港地観光)も復活し、取り扱いが増えている。より地域に根差した対応ができるようにGMTとJTBの営業スタッフが連携して対応した」
――24年の訪日インバウンドは、旅行者数が3687万人、消費額が8.1兆円、いずれも過去最高だった。
「訪日インバウンドが好調に推移し、活況が継続している状況だった。インバウンド関連事業の売り上げは、目標を超えた実績を達成した。この機会に訪日インバウンド共創部のミッションに立ち返り、戦略や組織について整理し直した。共創部は横断的な組織だが、体制としてはグローバル統括本部にひもづいてきた。しかし、業務をより戦略的に進めるには、全国の営業スタッフへの発信や連携が重要であると考え、25年2月からツーリズム事業本部に組織を移管した。全社一致、全社一体で訪日インバウンド事業を推進するためにいろいろな試みや検討を重ねている」
――戦略や組織を整理した上で、25年度の訪日インバウンド事業はどのような方針で進めるのか。
「25年度は事業領域を七つに絞った。一つ目は従来からのB2C、二つ目は海外OTAなどとの提携販売、三つ目はランドオペレーター機能、四つ目は企業関係のB2B、五つ目はプロモーション領域、六つ目は自治体と連携した地域活性化施策などのB2G、そして、七つ目がガストロノミーツーリズム、エンタメツーリズム、スポーツツーリズムなどを含むソリューション領域。これらの領域ごとに市場規模を分析し、5年後、10年後にどうやってシェアを伸ばすかを議論した上で取り組みを強化している」
「特に力を入れているのがランドオペレーター機能の強化だ。もちろんその機能や知見はGMTにデータと共に蓄積されているわけだが、JTBが訪日インバウンドに関するB2Gの事業を進める上で、訪日旅行をきちんと手配できる機能を全国に構築していこうと、北海道、仙台、名古屋、広島、福岡を推進拠点とした。既に先行している首都圏、関西圏、沖縄とともに、エリアごとに推進していく」
――山田副本部長は「東日本エリア広域代表」を兼務している。
「東日本エリア広域代表としては、やはり宿泊増売が最大のテーマだ。訪日インバウンドの影響もあり、大都市部などを中心に宿泊料金が高騰している中、いかに宿泊販売を最大化するか。例えば、24年の夏には、テーマパークを目的とする家族旅行のお客さまが料金高騰のあおりを受けて宿泊を取りづらくなる状況も一部にあった。マーケティングデータに基づいて適切な料金を提示することが、将来の需要につながり、宿泊施設にとってもプラスになるというような提案の仕方も検討していく必要があるかもしれない」
「訪日インバウンドの課題である分散に関しては、河口湖での事例などを他の地域にも広げていきたい。交流創造の視点でいえば、日本各地には魅力あるイベントがたくさんあり、イベントを基軸に発着での人流創出や交流機会創出を図っていければと思っている」
――JTB旅ホ連との連携をどう考えるか。
「旅ホ連の皆さまは、JTBにとってB2Bのお客さまでもあり、宿泊施設の発展につながる送客に努めたい。JTBから旅ホ連へのお願いの中には、地域の行政につないでいただくことも含まれているが、旅ホ連とJTBが一緒になって観光開発に取り組むケースも増えている。JTBのこれからの取り組みに注目していただきたい」
「個人的に、訪日インバウンド事業は平和のためにあると思っている。日本を知ってもらい、好きになってもらうことが日本の平和の源泉になる。オーバーツーリズムのような課題への対応について考えていく必要があるとともに、経済的な貢献だけでなく、旅ホ連の皆さまのおもてなしの力を借りながら、日本ファンを増やしていきたい」
山田常務