【観光業界人インタビュー】韓国観光公社・東京支社 支社長 申相龍氏に聞く


申相龍氏

外国人目線でのPR必用 隣国との交流が成功の鍵

 ――韓国から日本へのインバウンドの現状は。

 「今年は、昨年の訪日韓国人数714万人を上回る800万人を予測している。日本はPRしなくても良いぐらい人気だ。また、人気の観光地の情報は、ブログやSNSで拡散されている。この増加傾向は、東京五輪まで続くだろう。今は、若者を中心にリピーターが多いが、新規需要も増えている。大阪や沖縄などの地方への関心は高い。最近は、スマートフォンで情報を得て、FITで訪れる人が増えている」

 ――訪韓の現状は。

 「FITは順調で、韓流を目的にするなど女性を中心としている。社員旅行など団体旅行は少しずつ回復してきている。修学旅行はまだ戻らず、回復までにはまだ少し時間がかかると予測している。双方向交流を一層活性化するには、両国の交流人数が均衡にならなければならない。韓国の安全性や地方の魅力などを発信し、訪韓数を拡大したい」

 ――日本と韓国の旅行への考え方の違いは。

 「日本政府は『明日の日本を支える観光ビジョン構想会議』で新たな観光ビジョンを策定するなど観光に力を入れている。国全体で観光政策を進めることで、より早くより大きな効果を生み出せる。韓国も政府が観光産業に関心を持ち、同様に取り組んでいる。今後は東京五輪・パラリンピックもあるが、短期でなく、長期的に方針を持ち進めることが必要だ。一方で、訪韓数が伸び悩む問題の一つに政治的な問題がある。韓国では政治と観光は全く別物として捉えているが、日本では観光以外の問題があると足が鈍る。観光の仕事をしている立場としては苦しいこともあるが、政治の問題と観光は別にし、文化や観光を通じた交流を増やさなければならない」

 ――日本の観光の課題や問題点は。

 「現在はインバウンドが好調で、足りない部分は特に見当たらない。強いて挙げるとしたら、大きく分けて(1)外国人目線でのPR(2)さらなる双方向交流の活性化(3)若者の海外旅行離れ―の三つだ。外国人目線でのPRについてだが、地方が行っているPRの手法がどれも似ていることだ。例えば、海の幸を強調して宣伝しているが、外国人から見れば、全て同じものに見えている。地域別での差別化が必要だ。双方向交流の活性化については、日韓を含めて双方向での交流がまだまだ足りない。現在、青森など地方とアウトバウンドを一緒に取り組んでいる。アウトバウンドで外に出ることで日韓の交流が活性化し、韓国からも再びインバウンドとなり戻ってくることにつながる。アウトバウンドはインバウンドへの投資だ。飛行機の路線も、片方から一方的に来ている場合は、何かトラブルが発生した際は大きく減少し、路線が維持できなくなる。今訪れている観光客だけに満足せず、双方向交流による活性化に取り組んでほしい。若者の海外旅行離れについては、一つの例として、現在日本のパスポートの取得率は約24%と低い水準にあり、比べて、韓国はその2倍以上高い。LCCの台頭などで、安価で旅行に行けることになり、海外旅行も身近になった今、若者のパスポートの取得を促し、海外旅行への機運を高めてほしい」

 ――日本の観光が成り立つために必要なことは。

 「観光は融複合産業でもある。いろいろな部門、産業の人たちが力を合わせることで、より大きな成長や力となる」

 ――日韓交流に必要なことは。

 「姉妹関係などが結ばれている自治体は、その縁を活用し、交流を進めてほしい。たとえば昨年は、静岡県と一緒にイベントを実施した。また、今年秋には静岡と姉妹関係にある忠清南道を訪れるツアーを旅行会社と企画した。韓国に訪れた人には現地の祭りなどに参加してもらう予定だ。今年も11月に青森で同様の仕掛けを行うが、互いに地域を知ることは交流を深め、旅行需要の機運を醸成することにつながる」

 ――今後、日本の地方が取り組むべきことは。

 「増加するインバウンドを地方に分散することが必要だ。韓国でも、ソウルなど首都圏への訪問が非常に多い。『2017年外来観光客実態調査』(韓国観光公社発表)では、ソウル78.8%、京畿道15.6%、釜山15.1%、済州10.8%、仁川10.0%、江原道6.8%、大邱2.5%、その他14.1%と、ソウルなど首都圏への訪問が80%以上で、今後は首都圏以外へどう足を向けさせるかが課題となっている。韓国観光公社では、地方の文化や食、普段体験できないことを日帰りで楽しめる日本人客向けツアーバス『ご当地シャトル』の運行など、地方での観光が楽しめるプログラムを作っている。日本も同様、首都圏だけでの観光はすぐに限界が来る。インフラについても、不便なところをできるだけ解消し、特長を伸ばさなければならない」

 ――韓国観光公社の訪韓への取り組みは。

 「以前は、来訪者数の数字を重視していたが、同様に質も大事だ。来訪者のイメージをアップするため、安いパッケージだけでなく、七つのテーマ((1)公演(2)伝統市場(3)スポーツ(4)国際イベント(5)異色体験(6)クルーズ(7)食べ物)に分けた『テーマ観光』をPRしている。そこでしか体験できないものは、外国人観光客からは魅力に映る」

 ――韓国からは、どの国への旅行が人気か。

 「韓国からのアウトバウンドは、東南アジアが伸びている。ある旅行会社の調査によると昨年は大阪が目的地として1位だった。しかし、今年は地震など自然災害の影響もあり、ベトナムが1位となった。ダナンなどリゾートなどでゆっくりと家族で楽しむ旅行が流行している。物価も安いが、観光客へのウェルカムの雰囲気作り、おもてなしを丁寧にしている」

 ――最後に、日本の観光関係者へメッセージを。

 「海外では、メインターゲットは隣の国からと言われており、成功への鍵となる。ぜひ韓国にも訪れてもらい、共に交流人口を増やしていきたい」

シン・サンヨン=1989年韓国観光公社入社。大阪支社支社長、本社経営支援室室長などを経て、2016年11月から現職。

【長木利通】
 

 
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