【新春特別インタビュー】「観光の現状、展望はー」 日本政府観光局(JNTO)理事長 清野智氏


日本政府観光局(JNTO理事長) 清野 智氏

欧米豪や新市場開拓で成果 地方誘客とデジタルを強化

 ――18年はどのような年だったか。(聞き手・向野悟)

 「18年を振り返る時に皆さんがおっしゃることだと思うが、自然災害が多い年だった。インバウンドの分野では、災害で混乱が生じた時の移動や宿泊の代替手段の提供、正確な情報の提供の在り方に課題が見つかった。政府の観光戦略実行推進会議の緊急対策を受けて、JNTOでは訪日外国人向けの多言語コールセンターを365日・24時間化し、回線を増やした。連絡先の周知も強化した。ウェブサイトやアプリ、ツイッターで政府などが発信する災害関連情報を翻訳して随時提供する仕組みも整えた。もとより対策に終わりはないので、引き続き旅行者の安全、安心の確保に努めていきたい」

 ――自然災害の影響で訪日外国人旅行者数は18年9月に5年8カ月ぶりに前年比がマイナスとなった。

 「主に東アジアの訪日客数に影響した。中国への影響は限定的だったが、韓国、香港では前年を下回る月が続いた。ただ、西日本豪雨、北海道胆振東部地震に際して政府が当初予算の予備費を使って、いち早く観光復興対策を打ち出した。JNTOでは風評被害の払拭(ふっしょく)に向けてプロモーションを実施し、訪日旅行需要の喚起に努めた。18年の訪日外国人旅行者数は、統計が発表されている10月までの累計で前年同期比9.7%増の2611万人。年末までに大きなマイナス要因がなければ、初の3千万人突破となる見通しだ」

 ――課題となっている欧米豪からの誘客拡大は。

 「18年のトピックスの一つに挙げたいのが、欧米豪向けの『Enjoy my Japan』グローバルキャンペーンを2月に観光庁と共に開始したこと。アジアは引き続き重要だが、長期滞在が期待される欧米豪からの訪日客数を増やす必要がある。まだ日本を旅行先として認知していない層を対象にウェブサイトでの情報発信やデジタル広告、テレビ広告を展開している。欧米豪の重点市場9カ国では、前年に対する伸び率が17年5~10月は6.7%増だったが、18年5~10月は13.5%増と倍になった。国を挙げて欧米豪の誘客に力を入れた成果が表れている」

 ――ロシア、イタリア、スペインなどの新しい市場の訪日客数も伸びている。

 「JNTOはこの2、3年でモスクワ、ハノイ、クアラルンプール、デリー、ローマ、マドリード、マニラと相次いで海外事務所を開設した。海外事務所があるのとないのとでは反応が違う。現地での情報の収集や発信が強化され、現地のエージェントなどとの連携が進んだ成果だ」

 ――19年には、ラグビーワールドカップが日本で開催される。大会を契機とした誘客拡大が期待される。

 「ラグビーワールドカップでは国内の12会場で試合が行われ、公認チームキャンプ地は全国52カ所に上る。ラグビーは特に欧州や豪州で人気が高く、日本各地を多くのファンが訪れることが期待される。18年11月にロンドン郊外のトゥイッケナム・スタジアムで行われたラグビーの日本代表とイングランド代表の試合を日本のラグビー関係者と一緒に観戦した。約8万人を収容するラグビー専用スタジアムが子どもやお年寄りを含めて満員だった。熱心に観戦する姿が印象的で、こういう方々が日本にお越しになるのかと感激したが、待っているだけではいけない。日本のインバウンドの課題は地方への訪問拡大だ。JNTOでは地域と連携し、メディアの招請などを含めてプロモーションを実施している。地域の魅力が伝わり、満足した滞在となれば、リピーターの獲得、口コミや報道による情報の拡散につながり、20年の東京オリンピック・パラリンピック、さらに20年以降の誘客にも効いてくる」

 ――新しい年、19年をどのような年にしたいか。

 「20年の訪日外国人旅行者数の目標4千万人に向けて、重点市場へのプロモーション、欧米豪向けのグローバルキャンペーンをさらに充実させる。自治体やDMOから募集した体験型の観光コンテンツなどもストーリーを組み立てて発信する。そして地方を訪れるお客さまを増やし、旅行の満足度も高める。また、デジタルマーケティングにも力を入れたい。ビッグデータなどを活用し、どのような層にどのような素材がヒットするのかを分析して効果的にプロモーションを実施していく。こうした取り組みの新たなスタートの年にしたい」

 ――訪日外国人旅行者数4千万人という目標達成への課題は。

 「20年に4千万人を達成するには、18年を3千万人とすると、今後2年間でおおよそ15%ずつの伸び率が必要だ。訪日外国人の旅行消費額は現状(17年)が4.4兆円で1人当たり15万4千円だが、20年の目標は8兆円で1人当たり20万円だ。さらに30年には6千万人、15兆円という目標がある。旅行者数を増やすには、日本は島国で船舶の利用があるとはいえ、ほとんどは航空機の利用だ。地方への直行便の就航促進など航空路線の拡充が欠かせない。消費額にしても相当頑張らないと伸びない。目標はいずれも高いが、インバウンドの消費額は、日本の製品輸出額と比べても上位に位置し、観光が重要な産業として認められるようになってきた。政府はもとより全国の自治体がMICEを含めたインバウンドに力を入れている。観光の素材を考えても、田園風景、アウトドア体験などをはじめ、日本人には当たり前だが、外国人にとっては魅力的に映る素材が地方などに数多くある。欧米の観光客から評価されるような滞在型のリゾートの整備も可能性のある分野だ。日本には独自の自然や文化があるが、例えば、日本にしかない温泉文化やパウダースノーなどはもっと世界に発信したい。地域と連携しながら、新たな素材を見つけ、磨き上げる。それを情報発信し、誘客につなげていく必要がある」

日本政府観光局(JNTO理事長) 清野 智氏

 

 
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