【地方再生・創生論 335】ふるさと納税は地方経済の起爆剤だ 松浪健四郎


 ふるさと納税花ざかり、あちこちで返礼品の話題を耳にする。地方活性化のために、ふるさと納税が役立っている感じもする。私の故郷である泉佐野市が、アイデアを出しすぎて総務省と悶着(もんちゃく)が起こったけれど、解決してふるさと納税戦線に参戦中である。総務省は、あれこれルールを作るが、自治体のアイデア合戦であるという認識が必要である。人気上位の自治体は、この知恵比べの勝者ともいえる。この「ふるさと納税制度」は、総務省のホームラン並みの制度だと私は感心中だ。

 しかし、ふるさと納税による寄付に伴う住民税の控除額が、過去最高の約707.5億円に上ると総務省の調査で分かった。控除額とは、流出額であって、自治体によっては税収減となる。つまり、税収の多い都市部の自治体が、大名よろしく「ふるさと納税」を下々の自治体がアルバイトとして利用する制度だと決めつけ、熱心に取り組まないと流出額が大きくなってしまう。例えば、神奈川県川崎市の場合、ふるさと納税の受け入れ額(2022年)は約6億3千万円であるのに対し、住民税控除額は121億円である。川崎市は税収115億を失ったことになる。政府の補塡(ほてん)を受けられないため、丸々の損失ということになる。

 私の住む横浜市は、川崎市の2倍超の272億4千万円の流出である。読売新聞によれば、8年連続の全国ワースト1位だという。横浜市の場合、減収分を国が穴埋めされる立場にあるが、横綱相撲のごとく何もしないでいるかに映る。横浜市は広く、返礼品にこと欠かない自治体であるにもかかわらず、受け入れ額が少ない。市当局は、400以上の返礼品を準備しているのだが、宣伝が足りないようだ。大胆な広報が必要であるばかりか、返礼品の魅力も伝えることも大切だ。体験型の返礼品として、中区にあるマッカーサー元帥が滞在したニューグランドホテルの宿泊券もあるのだから広報不足。流出額を食い止めるように努力しないと、制度の欠陥ばかりを指摘するだけでは負け犬である。川崎市も制度の批判をしているが、頑張ってほしいものだ。

 ふるさと納税の返礼品の人気は、当初より肉、カニ、米といわれてきた。それでも地元の特産品や酒類にも人気があり、ブランディング合戦となっている。ルールでは、寄付額の30%以下が返礼品の調達費ではあるが、送料や仲介サイト手数料を除けば寄付額は小さくなる。それでも知恵を絞って、この制度を活用することが大切である。納税額の多い自治体は、返礼品に恵まれていることも大きいが、よく研究しているという評価がある。第5位にランクされ、138億円の寄付額を得た泉佐野市は、これといった産品がなかったけれど、市長を中心に工夫と研究によって返礼品を作り、上位に君臨している。総務省と戦って勝利した自治体というブランド力もさることながら、工夫力は他の自治体も見習うほどのパワーを発揮している。既に自治体としての人気を安定させ、寄付者の心理をうまく操作しているかに見える。

 各自治体に求められるのは、ブランディング戦略である。私ども大学も少子化で苦しんでいるが、ブランディングを成功させた大学は力強い。そのためには、ブランディングストーリーを作るといい。物語性があれば、人は興味を持つ。返礼品にどんな物語をつけるか、自治体の手腕が問われている。ふるさと納税とは、官製通販であり、税の奪取戦争である。その本質を理解しないと、寄付額を大きくできず、流出額を増やすことになる。

 批判はともあれ、ふるさと納税制度は、地方自治体の活性剤どころか、経済的側面の起爆剤ともなっている。首長がふるさと納税の制度をいかに考え、いかに取り組むか、この静かな競争は大切になっている。新商品開発のために自治体が協力したり、工場移転を促したりして返礼品を調達する。批判する自治体は、この制度の重要性の本質を理解していない印象を受ける。私はこの制度を支持する。

 
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