【口福のおすそわけ 500】桜エビ 竹内美樹


 今年もまた、桜の季節がやって来た。開花宣言が気になる今日このごろ、筆者は別の桜も気になっている。最近よくテレビで各地の絶景ポイントが取り上げられるが、富士山をバックに、手前の河川敷が一面ピンク色に染まっている絶景が。ピンクの花びらを敷き詰めたかのように見えるが、実は「素干し桜エビ」作りの様子。素干しとは、ゆでたりせずに生のまま天日干しにすることで、桜エビにまんべんなく日光が当たるよう、手作業で広げるのだそう。雪化粧をした富士山と青空、桜エビのピンクのコントラストが美しく、静岡県静岡市にある富士川河川敷の桜エビ天日干し場は、人気の観光スポットになっている。

 国産桜エビは、100%駿河湾産。水揚げできるのは、由比漁港と大井川漁港のみ。桜エビ漁の許可証を所有する船は、由比、蒲原、大井川地区の計120隻しかないという。資源保護のため、漁期も限られている。3月中旬~6月初旬の春漁と、10月下旬~12月下旬の秋漁の年2回。夏は繁殖期なので禁漁、冬は深海に潜ってしまうため休漁となる。つまり、桜エビはムチャクチャ貴重な水産物なのだ! 「駿河湾のルビー」と呼ばれるゆえんである。

 通常は深海に生息している桜エビだが、暗くなると、プランクトンを捕食するため水深20~30メートルまで浮上してくるので、操業は夜間。2艘1組の漁船が袋状の網を引く、船曳網漁だ。明治27(1894)年のこと、2人の漁師がアジ漁を操業中、浮きだるが外れて網が海中深く沈んでしまったという。引き揚げてみると、網には大量の、透明に光る小さな生物が。それこそが桜エビ。泳いでいる時は透明だが、水揚げされると桜色になっていくそうだ。今年でちょうど130年になる。

 春漁でとれる桜エビは、十分成長しているため、殻がしっかりしていて食感が良く、うまみもあるそうだ。秋漁のエビは、夏に生まれ成長中なので、小さめでやわらかく食べやすいという。いずれも風味高く香り良く、甘みがあって美味。鮮度が落ちやすく、かつて産地以外では素干ししかお目にかかれなかったが、冷凍冷蔵技術が発達した現在は、生や釜揚げも流通している。

 生のままワサビ醤油(しょうゆ)でいただいたり、かき揚げやバラ揚げにしたり、パスタなんかもいいなぁ~♪ 妄想は膨らむばかり。地元郷土料理に、「沖あがり」という、生の桜エビを豆腐やネギとともに、すき焼き風の味付けで煮込んだ漁師メシもあるとか。食べてみたい。

 桜エビは、ヒゲにまで価値があるらしい。乾燥させ粉砕した粉末入りの「桜エビ塩」などが販売されているそうだ。ちなみに、オキアミの一種「アミエビ」と混同されがちだが、全く別種。抗酸化作用のある赤い色素アスタキサンチンが豊富で、牛乳よりカルシウムも豊富。甲殻類に多く含まれるキトサンは、血中コレステロールを下げる効果が期待できるという。

 2024年の春漁は、3月25日から6月7日までと決まったそうだ。豊漁を祈る。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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