【全旅連青年部全国大会特集】新旧青年部長対談 鈴木治彦氏 × 星 永重氏


鈴木 青年部部長(左)、星 次期青年部部長

自信を持てる宿泊産業へ 観光を日本の基幹産業に

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)青年部は2月17、18日、東京ビッグサイト(東京都江東区)で第25回全国大会を開く。隔年事業の全国大会は通常ならば前年秋の開催だが、今期は同じ隔年開催の「旅館甲子園」の開催日に合わせて実施。日程も2日間に拡大するなど通常のパターンを大きく変えての異例の形式とした。全国大会開催に先駆けて鈴木治彦部長(岡山県・名泉鍵湯奥津荘)と、昨年9月の臨時総会で次期部長に内定した星永重副部長(福島県・藤龍館)に鈴木体制2年間の振り返りと次期星体制のビジョンを語っていただいた。(東京の全国旅館会館で)

 

 ――(司会=本社・森田淳)2年間の「鈴木体制」の振り返りを。

 

全旅連青年部長部長 鈴木治彦氏

 

 鈴木 私の体制は19年度、20年度の2年間なのだが、実はそれ以前に、当時の西村部長(西村総一郎・23代青年部長)の許しを得た上で、次の体制に向けて動きだしていた。東京オリンピック・パラリンピックに合わせて「宿フェス」という宿の魅力をアピールするイベントを行いたいと思っていたのだが、その準備に相当時間がかかると思ったからだ。

 それまで自分は副部長を3回させていただいた。それ以前から、この青年部活動に関わって感じていたのは、われわれは自発的に何かを行う業界、自立した業界ではないのかという疑問だった。

 そこを変えたいという思いがあった。自分たちの手で、自分たちが自信を持てるきっかけになる何かを行いたいと思った。

 自分が部長をやりたいと思い始めた数年後に、たまたま東京オリ・パラの開催が決まった。世界に類を見ない稀有な形態で、外国では経験できない宿泊体験ができる旅館。オリ・パラの開催が日本の旅館を世界の人たちにアピールできるいい機会だと思い、このイベントを思いついた。ただ、私の期ではその思いはかなわなくなってしまった。

 隔年の「旅館甲子園」に関しては、今回で第5回の開催となる。第1回を開催した横山体制(横山公大・20代青年部長)のとき、自分は副部長だったのだが、自分がいずれ部長をやるときには、正直言って「やりたくない」と思った(笑い)。当時は自分たちが満足して、「良かったね」「感動した」と、内々のイベントというイメージが強かったからだ。そうではなく、外部に発信しなければ意味がないと当時は思っていた。

 ただ、2回、3回と回を重ねていき、考え方が変わった。宿を自身でPRする格好の材料になるのではと思い、実際、私の旅館も第3回に出場した。

 さらに情報の外部発信については、これから私たちの業界を目指す若い人たちへの発信が必要と考えた。「この業界に入れば自分たちの人生が豊かになる」「人生に楽しみが増える」と思ってもらえるような見せ方をしたいと思った。そのような内容にすれば価値が深まるという思いから、私の期でも旅館甲子園を当初から事業の計画に入れていた。

 

 ――今回の全国大会は初めて旅館甲子園の時期に合わせての開催となった。

 

 鈴木 全国大会は、自分は過去7回参加している。運営側としての参加が多いのだが、参加者のアンケートで「勉強のため、分科会を全て見たかったが、時間が重なっているので見られなかった」という不満が毎回あった。

 その不満を解消するためには時間的余裕が必要だと、今回は2日間の開催とした。初日に式典、2日目に分科会を行い、全てのプログラムを見られるようにしている。初日の式典の後には旅館甲子園を開催。そして会場をホテレス(国際ホテル・レストランショー)が行われている場所と同じにすることでいつも以上の動員を図れるようにした。ブース出展をしていただく協定商社の負担が減るメリットもあると考えた。緊急事態宣言が発出されて、先が読めないところもあるが、ホテレスが開催される限りはやれることを精いっぱいやりたいと準備を進めている。

 旅館甲子園で今回ファイナリストに選ばれた三つの施設は、いずれも初出場だ。過去4回とは違ったプレゼンが見られるのではという楽しみがある。旅館・ホテルではない、グランピングの施設も入っている。コロナを経験して、新たな営業形態に転換したいと考える旅館・ホテルもあるはず。そのような施設にヒントを与えたり、後押ししたりする要素が今回含まれている。新たな価値の創造に寄与する第5回の旅館甲子園にしたいと考えている。

 

 ――星さんは政策担当副部長として2年間の鈴木体制を支えた。

 

全旅連青年部副部長(次期部長予定者)星永重氏

 

 星 18年の6月ぐらい、今の鈴木部長と、組織財務担当副部長を務める山本享平さんから次期の財務委員長を頼みたいと依頼があった。早速、事務局から資料を預かるなどして半年ぐらい財務をすごく勉強した。

 そして半年たった12月、全旅連の事務局から地元に帰ろうと地下鉄の駅を降りているとき鈴木さんから「星、突然ごめんな。お前、政策担当副部長やる気あるか」と電話をいただいた。半年間、財務を勉強して「は?」と思ったが(笑い)、青年部活動に関わって12年、いろんなことを学んだ中で、一番覚えたのが「はいかイエスか喜んで」なので(笑い)、「ぜひやらせていただきます」と、即答した記憶がある。

 ただ、今までの青年部への出向では国会議員や省庁の方々と深く関わる経験がなく、どうしようと思い、実際、手探りの中でこの期が始まった。

 この2年間では、やはり新型コロナへの対応が一番大きい。昨年2月から業界全体で予約が動かない、キャンセルがたくさん出る深刻な状況になり、「これは大変だ」「さまざまなところにお願いをしなければ」と動いた。

 国会議員の先生方、省庁の方々と、連絡を取らない日はあれから大みそかの1日ぐらいしかない状況だ。業界を背負っているのだというプレッシャーを感じながらいろいろと動いた。

 政策を担当する委員の人たちにいろいろと資料を作ってもらった。そして鈴木部長は出ずっぱりで、「部長はここまで働くのか」と思った。部長が出ずっぱりになるという話は経験者から聞いていたのだが、ここまでと思うぐらい本当に働いている。私が東京に行った日に、いない日はほとんどない。

 そんな部長の活躍を、議員の先生方や省庁もよく把握されていた。鈴木部長は菅総理の総裁選出陣式で応援演説のトップバッターを務めたが、抜てきされた理由はそこにあるのだろう。

 今までの業界運動は、どちらかといえば反対運動が多かった。今は国の政策への提言など、ポジティブな部分が多い。鈴木部長が書かれた出向者募集の要綱にも、そのような活動の記載が目立っていた。

 

 ――Go Toトラベルキャンペーンの対象に宿の直販を加えるため、青年部が精力的に動いた。

 

 星 なかなかOKが出なかったのだが、2カ月半ほど交渉してようやく実現した。直販の組み入れは、鈴木部長や直前部長の西村さんの「今の商習慣を変えたい」という思いが込められている。

 直販、旅行会社、OTAと、宿にはさまざまな販路がある。どこをどのぐらいの割合にしたいか、施設ごとに経営者の思いがあると思う。その思いを阻害する要因があってはいけない。

 

 鈴木 Go Toの一時停止に伴い予約がキャンセルされた宿には国からキャンセル料が補填(ほてん)される。しかし、キャンセルの記録が残っていなければいけない。年配の方が経営されている小さい旅館などは、PMS(旅館・ホテル管理システム)を導入していなかったり、キャンセルの記録を残していなかったりというところが結構あると思う。

 このような施設もGo Toをきっかけに顧客管理をしっかりして、キャンセルをした人にもDMを送るなど、今までできなかったビジネスができるようになると思う。今回のことがマイナスばかりでなく、プラスの面もあったと10年、20年後に考えられたらいい。

 

 星 会議のやり方もコロナ禍で変わった。変わったことの代表だと思う。人との接触をなるべく避けなければならない中で、ウェブを通して人と接触せずに話ができるツールがある。活用することで、むしろ今まで以上に頻繁に会議ができる。

 新たなツールはわれわれ世代が使いこなさなければ業界全体への普及につながらない。青年部が先頭に立っていかねばならない。

 

 鈴木 情報の伝達をリアルタイムで行わなければならないときがある。しかし、ツールがないためにできないことがあった。今までならば「できないからやらない」という言い訳が通ったが、もう通用しなくなった。

 ITを使った情報伝達は海外に比べて日本は遅れているといわれる。われわれ自身が成長するために、その促進は避けて通れない。われわれが避けていたら将来の人たちに禍根を残すことになる。

 

 ――先ほど話に出た菅首相の総裁選出陣式での応援演説。決まったときの心境は。

 

 鈴木 ある関係者から「これは大変なことですよ」と、興奮した声で電話を頂いた。「何があっても受けてください」と言うので、「ありがとうございます。受けさせていただきます」と。

 そのときは自分の旅館にいて、電話を切った後すぐパソコンを持って自宅に戻り、40分ぐらいで演説の原稿を書き上げた。

 本番まで3日間あったので、持ち時間の7分間の原稿を丸暗記して、あとは大丈夫だろうと前の日はかなりリラックスしていた。

 

 星 当日は壇上で鈴木部長の後ろにいたが、見ていて身震いした。自民党の先生方がみんな目の前で座って見ている。麻生副総理は、「観光はこれだけ裾野が広い産業です」「Go Toでこれだけの人が救われました」と数字を言った瞬間、上を向いてうなずいてくれた。

 

 鈴木 3人の応援演説者のトップバッターだったので、あとの2人に迷惑をかけないようにと良い雰囲気づくりに努めた。話が進むにつれて、全体の雰囲気が変わっていくのが分かり、自信を持って意外と気楽に話せた。

 

 星 その前の8月、菅さんと朝食を共にしたときも青年部のポジティブな部分を見せたいと頑張った。そのときは鈴木部長の指示で、業界からの要望書をポンチ絵のようなものも使い、分かりやすく作ってお出しした。

 

 鈴木 宿泊業を含めたサービス産業から解雇者、退職者を出さないように、業界の垣根を越えた出向の後押しを、とそのときお願いした。雇用調整助成金の出向に関する制度の改正は、あのときの要望が一つのきっかけになったかもしれない。

鈴木 青年部部長(左)、星 次期青年部部長

 

広報体制、提言能力を強化 「人生が変わる」全国大会へ

 

 ――次期部長予定者の星さんに立候補の動機をうかがいたい。

 星 部長をやりたいという思いは元々あったのだが、確固たるものになったのが昨年の新型コロナが流行しだした頃。Go Toトラベルの問題に取り組みながら、その思いがさらに強くなった。

 21年は東日本大震災からちょうど10年目。そんな巡り合わせも頭の中にあった。私の地元は東北の福島県。震災のとき、全国の皆さまには本当にお世話になった。全国の青年部員にもさまざまな支援をいただいた。青年部には震災後どこよりも早く、地元の人を励ます食のイベントを県内の南相馬で開いてもらった。

 震災でお世話になった人々へ恩返しをしたい。それが立候補を決定づけた大きな理由だ。

 

 ――次期体制のビジョンは。

 星 観光を日本の基幹産業に据えること。これを大きな目標に掲げている。

 コロナ禍からなかなか抜けきれず、特に初めの1年間はそれとともに生きていかなければならないのだろう。

 しかし、いずれは収束し、インバウンドが復活するときが来る。世界の国々とヨーイドンで、お客さんの取り合いが始まる。われわれは負けないように準備をしなければならない。オリンピック・パラリンピックは、どんな開催になるか分からないが、一つのフックになるだろう。

 宿泊施設の多様性、そしてこれだけ高い衛生管理の能力を担保できている国はほかにない。前面に打ち出してインバウンドの復興、促進をしたい。

 次期は広報体制に力を入れたい。「総務広報委員会」など、ほかの部門と合わせた委員会にここ数年していたが、広報を独立させて、情報の発信に特化した委員会を作りたい。

 Go Toで宿泊業だけがなぜ補助を受けられるのかと世間から言われたり、サイトに書き込まれたりしている。宿泊業は装置産業であるが故にかかるコストが大きい。そして旅行は宿泊業だけでなく、地域全体への経済波及効果が大きい。このことを外部にしっかり伝えなければいけない。

 

 鈴木 世論をリードできる組織になりたい。このコロナ禍で特に感じている。

 観光は地域経済全体に大きな影響があると、自分たちだけが分かっていてはいけない。お客さまにも分かった上で旅行をしてもらう。そんなふうに世論を変えていきたいと思っている。

 われわれだけでなく、例えば1次産業の人たちから発信してもらえるような仕掛けも必要だ。われわれだけが言ってもエゴに聞こえてしまう。

 

 星 1次産業にとどまらず、小売業やリネンなど、地域全体がタッグを組めればいい。

 

 ――鈴木部長の思い入れがある「宿フェス」は。

 星 まさに今の話と連動するもので、情報の外部発信、他団体との協業を通した地域経済の発展というわれわれの目的を実現するシンボリックな事業なのだと思う。

 コロナの状況が見通せない中で内容も含めてどうするか、慎重に考えたい。ただ、必ず必要なものだとは思っている。

 

 鈴木 宿フェスはお客さんがたくさん来て、イベントが盛り上がれば成功というわけではない。先につながるものができてこそ成功といえる。

 県によっては青年部と行政の関係性が薄いところがある。イベントをきっかけに各県の青年部がそれぞれの行政と連携を取り、いろいろなことがうまく回るようになれば成功といえるのではないか。

 

 ――若者への宿の魅力アピールへ、学生との連携事業については。

 星 旅館・ホテルに多くの人が勤めるとともに、経営したいという若い人たちも増えるような取り組みを進めたい。事業者が増えないと日本の宿泊産業の多様性は失われてしまう。われわれ青年部自体も、後継者難で部員が減少しており、このままでは厳しい状況だ。

 鈴木 今の時代、廃業せざるを得ない施設がまだ増えてくるだろう。ベンチャーで引き受けたいという若者たちをバックアップする国の制度があればいい。

 

 ――学生へのアプローチは鈴木部長がかねて力を入れてきた。

 鈴木 学観連(日本学生観光連盟)の学生とのインターンシップ事業を、自分が「宿の地位向上委員会」の委員長時代に始めた。思い入れのある事業で、次期も継続していただきたいが、ただ継続するだけでは意味がない。理念を継続しつつ、何か形を変えて行ってほしい。

 学観連の学生を青年部の常任理事会にオブザーバーで呼んでほしい。われわれの業界に興味を持ってもらうきっかけになるだろう。

 

 ――新体制のキャッチフレーズは。

 星 挑戦し続けること。今までの体制は英語が多かったので、私も英語でいくと、「キープ・トライイング」。大きなテーマは観光業を日本の基幹産業に押し上げること。一致団結して取り組みたい。

 委員会体制は、先ほど申し上げた広報体制の充実。そして政策の部分では、コロナ禍への対応で培った提言能力をさらに強化したい。

 

 ――鈴木部長から星新体制への期待は。

 鈴木 政策の部分について、さらなる強化を期待するが、あまり堅苦しいことばかりではなく、青年部らしい仲間同士の付き合いも必要だ。20代、30代の若い人たちが喜んで出向してもらえるよう、バランスを取ることも必要ではないか。

 青年部が発足して私の期で50年。新たな半世紀のスタートの部長として、自覚を持って取り組んでいただければと思う。

 

 ――全国大会の開催に向けて全国の部員にメッセージを。

 鈴木 今回は東京での開催。全国の部員とともに、国会議員の先生方、来賓の皆さまが集まりやすい場所だ。「青年部はこんなときでもしっかり前を向いて、業界のために頑張っているのだ」と、集まった皆さまにしっかりメッセージを伝えることが今回の大会の大きなテーマだと思っている。
今の青年部があるのはあのときの全国大会があったからだ、と未来の青年部員に言ってもらえるような大会にしたい。

 星 今、逆境なのは間違いない。しかし、どんな状況になったとしても、前向きに生きていけばその後の人生は変わる。皆さん一人一人の人生が変わるほどの大会にしたいと思っているので、ぜひ積極的に参加をしていただきたい。

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