【アフターコロナ・ウィズコロナ時代の観光5】マッキー牧元氏 × 山崎まゆみ氏


マッキー牧元氏

新時代の食と宿づくりを考える

 温泉エッセイストの山崎まゆみ氏をコーディネーターに、各界の著名人に聞くシリーズ企画「アフターコロナ・ウィズコロナ時代の観光」。5回目はフードジャーナリストで月刊誌「味の手帖」を発行する株式会社味の手帖取締役編集顧問のマッキー牧元氏に登場いただき、新時代の食と宿づくりをテーマに語っていただいた。

旅館料理でどう非日常を打ちだすか 旅行業はストーリー性あるものを喜ぶ

マッキー牧元氏

 山崎 食の専門家の牧元さんにとって、理想とする旅館料理とはどのようなものでしょうか。改善点などもお聞かせください。

 牧元 外食の楽しみとは、非日常を楽しむことだと思うんです。旅館で食べること自体が非日常ですが、料理でどう非日常を打ち出すか。

 ウニやトリュフなど、豪華な食材が非日常だと思うかもしれませんが、私は地元の山菜とかご飯とか、自家製の漬物とか、そういうものに非日常を感じます。

 郷土料理をどう洗練させるかは、料理人の腕ではないでしょうか。

 旅館に限らず地方に行って、食材や郷土料理、B級グルメもそうですが、「これは素晴らしい」と言うと、「どこが素晴らしいんですか」とよく聞かれます。自分たちの価値に気付いていないのではないでしょうか。

 逆に、「うちの野菜は日本一」と言う人がいますが、「隣の県や都会、最低でも隣の村の野菜を食べたことがありますか」と聞くと、「それはない」と。それでは日本一とは言えないのではないでしょうか。マーケティングをしっかりするべきだと思います。

 山崎 ほかに気になるところは。

 牧元 料理が全て同時に出てくることです。オペレーション上、仕方がないのかもしれませんが、何かやり方があるような気がします。

 片方で鍋がグラグラ煮えていて、横に冷めた天ぷらや、造ってから時間がたった刺し身がある。これでは盛り下がりますよ。

 朝食で盛り下がることもあります。朝食を大事にする人が増えていますから、同じように思っている人もいるのではないでしょうか。

 ご飯をおいしく出してほしいですね。朝早く起きて、洗米をして炊く。料理人でなくてもできますよね。まずはそこからだと思います。

 それから、やはりご飯とみそ汁なんですよ。できれば地元のみそで、香り高いものを、作り置きではなく、といで出してほしい。香りが全然違う。飲んだ瞬間に口の中にふわっと香りが広がる。幸福を感じます。

 いろんなおかずを出していただきますが、まずはご飯とみそ汁。そこをしっかり押さえていただきたい。

 一つ特徴を付けたいのならば、例えば卵。近所の○○さんのところで取れた卵ですと、書いてあるだけで盛り上がります。だし巻き卵を作るのが面倒ならば、ゆで卵でもいい。味付けのりはやめていただきたい。味が付いていない焼きのりならばいいです。地元産の納豆があれば、思わず頼んでしまいます。

 あるホテルでは朝採れの野菜をバンッと出してくれたのですが、これがみずみずしくて。もうこれだけで十分と、気分が盛り上がりました。

 地元の果物と野菜でスムージーを作っていただいたのもよかった。ある旅館でグレープフルーツジュースを部屋に持ってきてくれましたが、その温度が完璧でした。座って飲み終えて30秒後ぐらいにトントンと扉をノックしてコップを取りに来たりと。どこかで部屋の中を見ていたのではないかというぐらいのタイミングで(笑い)。おもてなしってこういうことなんだろうな、と思いました。

 山崎 旅館の皆さんはハレの食を出したいという気持ちがあります。たくさんの種類を出すことでハレを演出したい気持ちもありますが、牧元さんにとっては種類よりも素材や地方感ですか

 牧元 そうですね。その土地に伝わる料理。ただポンッと出しても駄目ですよ。土地の人以外はそれが何だか分からない。説明書きを付けて、係の人がしっかりと説明をすること。ストーリー性のあるものに旅行者は喜ぶんです。

 山崎 ここにしかないから、また食べに来たいと思いますよね。

 牧元 新潟の宿「里山十帖」で、納豆に刻んだ野菜を混ぜた郷土料理を出していただきました。

 山崎 「きりざい」ですね。

 牧元 ああいうのがいいんですよ。説明書きもしっかり書いてありました。「昔の人はこういうふうに食べていたんだ」とか、「昔はしょうゆが貴重だったから、こういうふうに塩分を取っていたんだ」とか、考えながら食べました。

 山崎 牧元さんからきりざいの話題が出てくるとは(笑い)。私は地元だから言いますが、あれは余り野菜を刻んだだけですよ(笑い)。

 牧元 でも、いいなあと思うんですよ。

 山崎 新潟はナスの生産量日本一です。里山十帖ですごいと思ったのは、そのナスをフルコースのように出してきたことです。普通、旅館でナスをそんなに出しませんよね。

 牧元 そこなんですよ。高級食材は都会で十分です。

 

地元の生産者とつながりを持つ 共同の食事どころ作ってみては

 山崎 飲食業界に詳しい牧元さんから、旅館でも役立ちそうな飲食店の取り組みをお聞かせいただければ。

 牧元 旅館の人が近所の生産者のことをどれだけ知っているか。まず、そこが大事なのではないでしょうか。1人でできなければ地域ぐるみで取り組めばいい。私が知っている地方の良いレストランは、地元の生産者とのつながりが強いです。

 山崎 旅館が良い料理人と巡り合うには、どうすればいいですか。

 牧元 これは難しいですね。今の飲食業界は、東京でさえも人材不足です。調理師になろうという人が極端に減っています。

 今のコロナ下で、東京でもレストランをやめようかという人たちがたくさんいます。そういう人たちを誘って、優遇してあげて、できれば行政もサポートして、旅館で3年がんばれば独立できる、というような制度をつくればいいのではないでしょうか。

 旅館で料理人が見つからなければ、近所の5軒ぐらいが共同で宿泊客用の食事どころを作ってはどうですか。お客さんが浴衣で行けて、割烹のような本格的な料理を出す。それか、思い切って素泊まりか朝食のみにする。旅館で必ず夕食を出さなければいけないのか。そこから考えなければいけないと思います。

 山崎 「ここに行けば勉強になる」というお店をいくつか挙げてもらえれば。

 牧元 北海道は栗山町にある「味道広路」。北海道の和食では一番です。札幌の「寿山」も素晴らしい。秋田は「みかわ」という天ぷらの店と「たかむら」という料亭。東京で本格的な料理を学ぶなら赤坂の「辻留」ですね。名古屋の「花いち」、京都の「浜作」「千花」、大阪の「本湖月」、徳島の「壺中庵」、福岡の「畑瀬」、鹿児島の「山映」。みんな地元の食材をしっかり使っています。

 佐賀の武雄温泉に「あん梅」というお店があって、居酒屋では日本で五本の指に入るぐらい素晴らしい。ここに来るために旅館に食事なしで泊まったほどです。沖縄では宮古島の「エタデスプリ」。ここのフレンチはすごい。工夫に工夫を重ねて、おいしくないと言われる(笑い)沖縄の魚をおいしく仕立てるんですよ。これは素晴らしかった。

 山崎 最後に、コロナ禍で苦しんでいる全国の旅館に応援のメッセージをお願いします。

 牧元 旅館はほっとできる空間。そして非日常があります。日本にしかなく、特に外国の人には非日常を感じてもらえますよね。そんな素敵な空間をこれからも提供していただきたいです。

山崎まゆみ氏

 
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