観光庁検討会、旅館経営巡り議論白熱


旅館業の振興に話題が集中した検討会

旅館業の振興に話題が集中した検討会

 観光産業の強化策を探る観光庁の観光産業政策検討会。10月31日に開かれた第2回会合は、旅館業の経営改善や活性化に話題が集中した。旅行業振興、人材育成、IT(情報技術)活用、ブランド確立など幅広いテーマが用意されていたが、検討委員を務める有識者からの発言の大半は旅館にかかわるものに。旅館業への関心が高いのか、旅館業が抱える問題が多いのか、いずれにしても旅館業を巡る議論は盛り上がった。

 口火を切ったのは旅館経営者。新潟県・越後湯沢温泉の旅館、いせんの井口智裕社長は「民間事業者は顧客満足度を高め、収益を確保し、そして投資を行う。持続的な経営にはこのサイクルが必要だ。そのための環境づくりを整備するのが行政の役割。ただ、旅館にマネジメントのスキルが足りないなどの現実を直視しなければならない。それを支える仕組みも求められている」と問題提起した。

 以降、他のテーマをはさみつつも、旅館業の経営改善や生産性向上に関する意見が相次いだ。

 産業技術総合研究所・サービス工学研究センターの内藤耕副研究センター長は「例えば、宿泊人数に対して厨房に何人必要か、従業員の適正な人数は何人か。旅館経営は基本的なところが科学的に検証されていない。『旅館学』『旅館科学』といったものを学問にしないと、学ぶことができないし、経営を近代化することはできない」。

 リクルート・ライフスタイルの沢登次彦じゃらんリサーチセンター長は「宿泊産業は生産性の改善、向上に取り組むべきだ。ただし、そこで得られた時間で何を生み出すのか。宿泊の価値にイノベーションを起こすことを考える時間に充てるべきだろう。生産性を改善し、イノベーションを生み、消費者の間に宿泊施設に泊まるという価値をもう一度根付かせるべきだ」。

 首都大学東京・都市環境学研究科観光科学域の矢ヶ崎紀子特任准教授は「観光産業は、他の産業が普通にできていることもこれから取り組むという現状にある。一方でリーディング産業に早く成長してほしいという国の要請がある。言葉は悪いが、手っ取り早く産業を伸ばすには、優秀な経営者と優秀な中間管理職を多く持つことが重要。旅館業では小規模な経営ではファミリービジネスというあり方が1つあるが、中規模以上の旅館ではチェーン化などの手法によって優秀な経営者、中間管理職を増やすこともできる。ベストプラクティスをつくって業界全体の底上げを図るべきではないか」と指摘した。

 課題ばかりでなく、旅館が持つ成長性や若い旅館経営者への資質に期待をふくらませる意見も出た。

 ITを活用したビジネスを起こす百戦練磨の上山康博社長は「日本の文化が凝縮された旅館の海外展開は、日本文化そのものの輸出だ。経産省はクールジャパンとしてコンテンツを輸出しようとしているが、純和風の旅館がハワイにあれば、外国人にとってはクールだ。また、漫画などのコンテンツは複製が可能なものが多く、収益化しづらい面も。だとしたら旅館とクロスさせてはどうか。北京にドラゴンボールホテルとか、パリにキティちゃんホテルとか。圧倒的な日本を示すことができる。民間でリスクが高いようなら行政が支援を。海外に出すことで旅館の価値をブラッシュアップできる」。

 日本政策投資銀行産業調査部の鍋山徹チーフエコノミストは「戦後半世紀を担ってきた世代から若い世代への経営のバトンタッチが進んでいる。若い世代には隣の旅館とも仲良くやっていこうと考える人が増えている気がする。ある地域で世代交代した社長同士を業種に関係なく交流させた。すると地域全体で目の前にある資源をどう組み合わせるかが前向きに語られた。世代交代から新たな動きが出てくる」と期待した。

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