休暇分散化の導入に向けた合意形成を目指す観光庁は3日、東京都内のホールで休暇改革シンポジウムを開いた。産業界や教育界の有識者によるパネルディスカッションでは、秋に大型連休を創出し、地域ごとにずらして取得する分散化案に対し、企業の経済活動や子どもの教育への影響などを懸念する意見が出た。依然として慎重論が根強く、合意形成に向けてはデメリットや不安の解消が課題となっている。
観光庁は、春(ゴールデンウイーク)と秋の休暇分散化案を提示してきたが、世論調査の結果や有識者でつくる国民会議の提言を踏まえ、秋に絞った案の導入を目指している。休暇分散化に関する意見交換会を地方ごとに実施中で、シンポジウムもその一環で開いた。
一般からの希望者約300人が傍聴。パネルディスカッションでは秋の分散化案に対し、休暇取得を促進する趣旨には賛同が得られたが、分散化の具体的な実施となると、産業界や労働界を中心に慎重な議論を求める意見が相次いだ。
東京商工会議所の地域主権推進委員会で委員を務める増井雄二氏(宝貴宝社長)は、中小・零細企業の立場から「地域間の取引に支障が出る。納期を守るために休日出勤やコストで無理をしなければならない。中小企業にやさしい休暇制度を」と訴え、「企業の生産性を向上させ、有給休暇を取得しやすい環境づくりに取り組むべきだ」と指摘した。
日本経済団体連合会・観光委員会企画部会長の生江隆之氏(三井ホーム社長)も、「分散化ありきで休暇改革の議論を進めるのはどうか。その前に検討すべきことはたくさんある」として、国民と経済の活力維持を重視した上で、学校休業の分散化と企業の有休促進を組み合わせ制度の検討なども求めた。
子どもたちの教育の視点からは、全日本中学校長会総務部長の大江近氏が「分散化しても実際には多くの親が休めず、結局、子どもらは学校で部活というのでは意味がない。行政と企業がよく議論した上で実施してもらいたい」と要望した。
一方で、休暇改革の第一歩として、家族旅行に出かけやすい環境づくりにもつながる分散化に賛同する意見も。父親の仕事と子育ての両立などを支援するNPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事の安藤哲也氏は、「デメリットを挙げるだけでは、前には進まない。課題の解消に向けた検討が必要だ。国、会社ではなく、一人ひとりが自分の問題として考えないと、何も変わらない」と語った。
休暇制度改革から イノベーションを
日観協・西田会長
パネルディスカッションに先立ち、日本観光協会会長を務める東芝会長の西田厚聰氏は、休暇改革をテーマに講演した。秋の休暇分散化に関しては、経済、社会にイノベーションを生み出す契機になるとして、「新しい取り組みとして積極的に考えるべきテーマではないか」と語った。
休暇改革から働き方、休み方、暮らし方を考える重要性を指摘するとともに、「グローバリゼーションの中で企業が競争に生き残るには変化に俊敏に対応し、自らを変え、日々、イノベーションを起こす必要がある。休暇の問題も同じだ。これまで通りでは何も変わらない」と訴えた。
休暇改革シンポジウムのパネルディスカッション