福島第1原発事故による観光業の風評被害の賠償問題で、東京電力はこのほど、福島を除く東北5県の旅館ホテル組合に対して賠償範囲を拡大する新提案を示した。従来は昨年3月11日から4月22日までの期間で、18歳以下の子どもを含む東北地方以外からの旅行に限定していたが、対象期間を昨年11月末までに延長。子どもを含む東北以外からの旅行という条件も撤回した。東北5県の旅館ホテル組合は「大きな前進」とする一方、11月までとする範囲については不十分とし、さらなる拡大を求めて東電側と交渉を継続、9月中にも決着を見たい考えだ。
全旅連(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)東北ブロック協議会は8月21日、仙台市内のホテルで第4回の原発風評被害賠償対策検討委員会を開き、この席で東電側が新提案を示した。
従来案は今年6月25日に示されたもので、すでに認められていた福島県と山形県米沢市以外の東北各県の賠償も行うと初めて明言した。
ただ、賠償の対象期間を事故発生の昨年3月11日から、政府が計画的避難区域を定めた同年4月22日までに限定。また放射能への感受性が高い18歳以下の子どもを含む東北以外からの旅行に限定しており、旅館・ホテル側から「賠償範囲が狭すぎる」と批判が出ていた。
今回の新提案では、「東北地方以外から東北5県への旅行を回避することについては、弊社事故と一定程度の相当因果関係があったと考えられる」と初めて明記。ただ、「相当因果関係があったと考えられる期間は事故後の数カ月と考えられる」としており、賠償期間を11月末までに限定している。
東電側は賠償額の具体的な算出方法も提示。ただ、原発事故以外の要因による売上減少を加味するなど、複雑な計算様式になっている。
22日に記者会見した山形県旅館ホテル生活衛生同業組合の佐藤信幸理事長(全旅連会長)は、「東北以外から東北5県への旅行が敬遠されたことに関して、これまでと違い原発事故と相当因果関係があったことを認めたことは大きい」と、新提案に一定の理解を示した。
ただ、「賠償額の算出方法は複雑で、県組合で精査したところ、賠償額は売上減少分の5%程度の見込みだ。不満であり、今後も交渉を重ねていきたい」としている。
全旅連東北ブロック協議会の松村譲裕・原発風評被害賠償対策検討委員長(秋田県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長)は「賠償対象、期間を拡大したことは一応の評価ができるものの、冬が対象期間から外れ、客減が考慮されず満足のいく回答ではない」と指摘。9月初旬にも第5回の委員会を開き、早期の問題解決を図りたい構えだ。
スキー場を抱える山形県蔵王温泉旅館組合の伊藤八右衛門組合長は「東北には多くのスキー場がある。スキーシーズンが入るよう、賠償期間を延ばしてもらいたい」「売上減少分の5%程度の賠償では安すぎる。改善してほしい」と述べている。
記者会見で質問に答える山形県旅組の佐藤理事長(右)