政府 観光戦略実行推進会議、宿泊施設の外国人対応 促進


 政府の観光戦略実行推進会議(議長・菅義偉官房長官)の第36回会合が15日、「地方部における宿泊施設の外国人対応の促進について」をテーマに首相官邸で開かれた。宿泊事業者や有識者からのヒアリングが行われ、施策の方向性などを意見交換した。施設の老朽化やそれに伴うサービスの低下、外国人客への対応の遅れなどが宿泊施設の課題に挙がり、生産性向上や投資を促進することで、宿泊サービスを高付加価値化する必要性などが提言された。

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 宿泊施設からのヒアリングでは、雅叙苑観光が運営するラグジュアリー施設「忘れの里雅叙苑 天空の森TENKU」(鹿児島県霧島市)について同社代表取締役の田島健夫氏が紹介。TENKUは、霧島連山の麓の敷地60ヘクタールに1棟貸しの温泉付き宿泊施設が3棟。1泊の料金は30万円から。滞在を通じて日本の文化、地域の文化に価値を認めてくれるのが外国人で、年間約500組の宿泊客のうち半数は外国人という。

 「阿蘇内牧温泉 蘇山郷」(熊本県阿蘇市)については館主の永田祐介氏が発表した。九州北部豪雨(2012年)に伴う施設被害を契機にインバウンドの受け入れを決意。宴会場のレストランへの改装、ベッドルームの設置、海外OTAへのプラン掲載などに取り組んだ。泊食分離によって連泊、地域の飲食店への回遊も促進した。熊本地震(16年)の影響は受けたが、客単価は地震以前を大幅に上回っている。

 温泉街の再生については、地域経済活性化支援機構(REVIC)執行役員・マネージングディレクターの大田原博亮氏が、長野県山ノ内町の湯田中温泉の事例を報告。観光ファンドを組成して投資、人材を注入。意欲ある若手起業家の参入を促し、遊休資産を宿泊・飲食施設に活用した結果、地域の外国人宿泊客数が大幅に増加した。

 ただ、湯田中温泉の成功モデルは、欧米で認知度の高いスノーモンキー(地獄谷野猿公苑)のブランド、多くの小規模な遊休不動産、地元起業家のマンパワーなどが成立条件だったとして、他の地域への展開には、地域の実情に合わせた工夫と、持続的な展開にするための国の積極的な関与が必要と提言した。

 観光庁は、地方部での外国人延べ宿泊者数は増加しているが、都市部や北海道、沖縄県などを除く多くの地域では増加の余地が大きいと説明。しかし、地方部の宿泊施設の投資額や宿泊単価は都市部より低く、「老朽化した施設、従来型サービスが多く、個人客・外国人のニーズに対応できていない」と指摘した。

 観光庁は、地方部の宿泊施設のインバウンド対応強化や高付加価値化について、(1)単独の宿泊施設での対応が難しい場合は、各宿泊施設が生産性向上に向けて、他の施設との連携・統合などを図る(2)意欲ある宿泊施設が金融機関の協力を得て積極的な投資を行い、個人客や外国人向けのサービスに転換する(3)これらにより宿泊を高付加価値化し、収益でさらなる投資を行う―の好循環を構築したい方向性を打ち出しており、具体的な支援策の在り方を検討する。

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 政府は、訪日外国人旅行者の地方誘客を拡大し、地方創生を実現する上で、地方部の宿泊施設のインバウンド対応などを重視している。

 観光庁は、継続事業として20年度当初予算案に計上した訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業の一環で、旅館・ホテル100件程度に対し、インバウンド対応などの補助金を交付して支援していく姿勢を示している。

 また、政府は19年12月に閣議決定した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」に基づき、日本政策投資銀行などの関係機関と連携して財政投融資を活用し、資金面・ソフト面から支援を行い、「目標を定めて地域への誘客力を備えた世界レベルの宿泊施設」の整備の促進に取り組む方針を示している。

 菅官房長官は15日の会見で観光戦略実行推進会議について「宿泊施設の改革について議論した。宿泊は旅行消費の約3割を占めているが、地方の外国人宿泊客は、この6年間で4.5倍に増加する一方、北海道、沖縄など地方の上位10道県で6割以上を占め、それ以外の地域での拡大余地というのはまだまだ大きいと思っている。地域経済活性化支援機構は全国5カ所でスキーリゾートや温泉街の再生に取り組んでおり、政策投資銀行においても外国人宿泊施設の整備に取り組んでいく。観光庁でも、全国100程度の宿泊施設で多言語化などを支援することとしており、経産省、金融庁などとも連携し、政府一体となってこうした取り組みを進めていきたい」と述べた。  

 
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