需要発掘、高付加価値化に
リクルートの観光に関する調査・研究・振興機関「じゃらんリサーチセンター」は、宿泊業における新たなマーケティング調査手法の開発に取り組んでいる。従業員のアイデアを軸にして、商品・サービスの開発、宿のブランディング強化を目指す「宿ポテンシャル調査」と呼ぶ手法で、旅館・ホテルで実証実験も進めている。深刻な人手不足、コスト上昇に伴う価格転嫁などを課題として、需要発掘による高付加価値化、従業員の満足度・モチベーション向上による人材力強化につなげる。
◆ ◆
宿泊施設が需要開拓を目指す際、宿泊実績がある顧客の調査から着手することが多いが、顧客の評価は、他の旅館・ホテルとの比較から改善点を見いだすのには有効でも、潜在的な可能性を導き出しづらい。他社との差別化、オリジナリティあふれる宿づくりを進めるため、新たなマーケティング調査手法を検討した。
宿ポテンシャル調査は、「宿泊施設で一番ロイヤリティが高いコアファンは、愛着が深く忠実な従業員(=ファン従業員)ではないか」という仮説のもと、各宿泊施設の従業員を対象に、自施設に対して愛着を感じている要素を調査する。調査項目の要素として「場所」「人」「サービス」に関する設問で、宿の潜在的な可能性を明らかにする。
具体的には、従業員を対象に実施した調査結果をもとに、新たな強みとなりうるアイデアを発掘するための社内ワークショップを行う。
ワークショップの基本手順は次の通りだ。(1)発散=個々の気づきをグループ内で共有・分類(2)収束=新たな強み、新たな可能性になると感じ、取り組んでみたいと思ったアイデアをグループ内で絞り込み(3)磨き込み=他グループのアイデアを聞き、さらにアイデアを改善・掘り下げる(4)アウトプット=グループごとにアイデアを発表。
ワークショップでまとまったアイデアについて、商品・サービスとして一般に提供する前に、宿泊実績のある顧客に対して評価調査を実施し、利用者の支持を得られるかを確認する。調査結果、ワークショップ、顧客への確認調査の実施で3カ月程度を必要することを想定している。
新たなマーケティング調査手法の実証実験には、東京ステーションホテル(東京都)、松本楼(群馬県・伊香保温泉)、草津温泉ホテルヴィレッジ(群馬県・草津温泉)が協力している。
じゃらんリサーチセンターは「宿泊プラン造成担当部署の人材だけでなく、経営企画、総務、人事、料飲、メンテナンスなど、施設に携わる多様な人材が組織横断で意見、強みを出すことで、『共創型』経営の組織風土を醸成。従業員のアイデアを経営に生かす流れをつくることで、組織コンディションの向上、従業員の宿への愛着や関与度の向上、次世代リーダー人材の発掘にも期待できる」としている。