【2025教育旅行レポート】東京都立永山高等学校(広島県・大阪市、24年10月25日~28日)


大崎上島町での農業体験(写真の生徒は同校とは無関係です)

大崎上島町での農業体験(写真の生徒は同校とは無関係です)

 多感な高校生にとって教育旅行(修学旅行)は学生時代の一大イベントだ。楽しみでもあり、また不安でもある。非日常の場に身を置き、その土地ならではのものに触れ、見て、人と接することで視野が広がることもある。ここでは充実した教育旅行(修学旅行)を実施する2校の取り組みを紹介する。

農山漁村体験で人間力向上 スマホ活用で移動中に復習も

 東京南西部の多摩丘陵に広がる多摩ニュータウン。閑静な住宅地の中に校舎を構えるのが、多摩市唯一の公立高校・都立永山高校だ。2022年に創立50周年を迎え、21年には校舎もリニューアル。新校舎に移転した今でも変わることなく、同窓会やPTA、地域住民が活発な生徒の成長を見守っている。

 半世紀以上の歴史を紡いできた同校では、「豊かな人間性」「健康な心身」「個性の伸長」を教育目標に掲げる。「教育内容の充実と進路実績の向上」を目指しつつ、国際交流や探究学習、キャリア教育や部活動などの多彩な学びを重ねながら、「これからの国際社会で活躍することができる豊かな教養と人間性」を育む教育に、学校一丸となって取り組んでいる。

 こうした教育方針を掲げる同校では多彩な学校行事を用意しているが、中でも修学旅行は「豊かな教養と人間性」を育むにあたって重要なイベントだ。行き先によって実施する時期は異なるが、2024年度の第2学年の修学旅行は10月に実施した。

 24年度は修学旅行の目的を平和学習や農山漁村での文化学習、集団行動を通じた人間関係や「生きる力」の成長―と位置づけ、行き先を広島・大阪に設定。3泊4日の期間を設け、広島市内での平和学習や瀬戸内海の島々での生活体験を実施。約320人の生徒が参加した。

 同校の修学旅行は、「旅前」学習から始まる。出発の2カ月前ごろからホームルームや総合的な探究の時間を使い、訪問先の地理や歴史、観光産業や1次産業などについて3~5人のグループに分かれて探究学習を実施。ビデオ学習やタブレットの活用など、さまざまな学習素材を使って事前調査を行った。同校は文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」に倣い、生徒1人につき1台のパソコンを活用している。ただしICT端末で完結することはせず、レポート用紙やワークシートなども併用し、デジタルとアナログでの事前学習を推進している。学習の進め方はクラスによってさまざまで、班ごとにプレゼンテーションも行うクラスもあった。

 修学旅行当日は、各生徒が事前に深めた知識をさらに深めるべくさまざまなスポットに足を運んだ。

 1日目は、広島市内の平和記念公園を訪問し、原爆ドームや平和記念資料館で戦争の悲惨さについて学習した。その後は宮島へ移動し、厳島神社を見学した。2日目はクラス別に瀬戸内海の島々を訪問。1、2、7組は大崎上島町、3、8組は福山市内海町、4、6組は江田島市、5組は周防大島町に渡った。各島では、農業・漁業を営む家庭で生活体験を実施。事前に学習した内容を実際に体験することで、知識を貴重な「経験」にすることができた。3日目は新幹線で大阪市に移動。午後はユニバーサルスタジオジャパン(USJ)で自由行動、4日目に大阪市内で自由行動の時間を設け、多くの思い出を作って帰京した。

 特に2日目に実施した瀬戸内海の島々での農山漁村体験は、生徒らにとっては新鮮な体験となった。中でも3クラスが上陸した大崎上島町では、家業体験として農業や漁業、新鮮な魚や野菜などの地元食材を使った調理体験など、さまざまな体験プログラムが用意されている。
修学旅行を企画し、実際に同行した戸舘良平主任教諭は、「教師がいない農山漁村での生活体験が、生徒たちにとってかけがえのないものになった」と振り返る。家族や教師といった「慣れ親しんだ大人」と完全に切り離された環境で地元の人々と人間関係を構築し、コミュニケーションをとることで、島が抱える農家高齢化や後継者問題といった現状について身をもって学習できた。

 実際に大崎上島海生体験交流協議会では、教育旅行受け入れの基本理念として生徒と島民の共通体験を通して互いに信頼関係を築き、生徒のコミュニケーション能力や人間関係構築力を高めることを掲げている。あるがままの暮らしの中に生徒を迎え入れ、生業の大変さや難しさを知ってもらう。その中で、危険予知・安全対応のノウハウ、課題解決力、想像力などの内発力を身に付け、生徒の精神力を高めることに寄与している。

 受験勉強や部活動などで忙しい高校生にとって、こうした農山漁村での生活体験は普段の生活で経験することは難しく、その分ここでの体験はかけがえのないものになる。同校ではこうした体験を通して得られた気づきや発見を新鮮なうちに振り返ることができるよう、修学旅行の中で感想文やレポートを提出させる取り組みを行っている。

 同じく修学旅行に同行した板橋淳一主任教諭によると、各地訪問後の移動時間で、生徒一人一人のスマートフォンを使い、専用のアプリ内で提出させるのだそうだ。現代はスマートフォンの携帯が当たり前の時代。現地で見たこと、体験したことに対してしっかり向き合えるよう、時代に合わせた「旅後」学習を取り入れている。

 これからの修学旅行に求めることについてもうかがった。前回の修学旅行では広島県での農山漁村体験の後、後半は大阪市内に滞在したが、「企画時点で、ほかの教師からは阪神淡路大震災について学ぶ時間も確保したいという声もあった」と戸舘主任教諭は話す。スケジュールの都合でかなわなかったが、激甚災害から身を守るための知恵を身に付ける「災害学習」を修学旅行に組み込む動きも近年増えている。平和学習や農山漁村体験のほかにも、幅広く学習テーマを探している様子がうかがえた。

 また、学年全体での行動とクラスや班といった少人数での行動、それぞれのバランスも重要だと実感しているという。前回の修学旅行では班単位で行動することが多かったが、大きな集団での行動を通じてより広い人間関係の構築力や社会性を身に付けることができるのが学校という場所でもある。小グループでの行動が多くなりがちな修学旅行だが、「学年全体で何かをする」という体験も重要になりそうだ。

大崎上島町での農業体験(写真の生徒は同校とは無関係です)
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