
斉藤国交相に緊急提言書を手渡す赤羽会長
公明党観光立国推進議員懇話会(赤羽一嘉会長)、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連、井上善博会長)、日本旅館協会(大西雅之会長)は23日、観光回復への支援拡充に向けた緊急提言書を斉藤鉄夫国交相に提出した=写真。金融対策や省エネ設備等導入支援、高付加価値化補助金事業の継続実施に加え、災害対応、人手不足対応などについても要請した。
コロナ禍収束に伴う需要回復期にある観光業界だが、約3年にわたるコロナ禍のダメージがいまだに尾を引いており、旅館・ホテルなどの宿泊事業者の多くは施設の維持、管理の必要から過大な有利子負債を抱え、約4割の事業者が債務超過に陥っている苦しい現況がある。
誘客の側面では、インバウンドが復調する中で、国内外の高付加価値旅行者の誘客促進のため、宿泊施設として高付加価値化を図るための整備も求められている。業界が慢性的に抱える人手不足が、これら諸問題の改善、解決をより困難にしている。
赤羽会長は提言書内の各項目の重要性を斉藤国交相に説明。赤羽氏は金融対策については「各宿泊施設が累積赤字を解消するために、もう一、二段階踏み込んでほしい。この問題を放置すると2030年のインバウンド6千万人受け入れ時に重要なインフラとなる宿泊事業者が潰れてしまう」、高付加価値化補助金事業については「各地で大きな効果が出ている半面、採択について競争が激化している。補正予算でも要望し、来年度以降もぜひ実施してほしい」とそれぞれ訴えた。
全旅連・井上会長、同青年部・塚島英太部長、日本旅館協会・大西会長は、宿泊事業者の視点も含め各地の宿泊事業者の窮状を報告。3氏は、オーバーツーリズムが巷間で話題となる中、インバウンドの観光需要や人流が都市部に集中し、地方部に行き渡っていない現状、宿泊事業者の借り入れ返済に関する現状と返済見込みなどを示し、斉藤国交相と議論した。
斉藤国交相は「インバウンドの約7割が都市部に集中し、これらをいかに地方部に送客していくかが大きな課題で、そのための大きな武器が高付加価値化事業。地方送客こそが一つの大きな解決の柱になり、関係閣僚会議で議論する中で、首相も同じ思いでいる。地方送客にしっかり力を注ぎたい」と話した。金融対策については「中小企業庁に皆さんが積極的に話をして下さっていることを承知している。同庁と政府に対し、観光再生のために金融対策を引き続きお願いしていく決意だ」と述べた。
斉藤国交相は結びに、「欧米は観光業がGDPの10%を占めるが、日本はまだ5%。つまり2倍にできる。そのための人手不足対策も含め、関係省庁にしっかり働き掛けていく」と意気込んだ。
今回の提言は以下の通り。
1.金融対策(資本性劣後ローンの活用)について
・資本性劣後ローンに関し、融資後4年以降、業績が黒字転換した場合、現行制度では適用金利が0.5%から2.95%になるが、貸借対照表上の自己資本比率が15%を超えるなど経営体力が回復するまでの間は、日本政策金融公庫の基準金利を参考にしながら低金利を適用すること。なお、自己資本比率の算定に当たっては純資産額に資本性劣後ローン借り入れ分を含めないこと。
・小規模事業者においては、資本性劣後ローンの利用が進んでいない状況であり、同制度の積極的な活用を進めるためにも、小規模事業者による同ローンの導入に向けた仕組みづくりを構築すること。
・資本性劣後ローンに関しては、政府系金融機関および民間金融機関において、個別では借入が認められないケースも多々あり、こうした個々のケースにおける対応に差が出ないよう各金融機関の地方支店への周知徹底を図ること。
2.省エネ設備等導入支援
省エネ設備等導入支援事業は、原油価格・物価高騰に苦しむ観光業界にとって効果的で、予算額を上回る応募がなされるなど人気の事業となっている。しかしながらいまだに原油価格、物価が高止まりしている状況下にあり、省エネ設備等の導入については、引き続きの支援を継続すること。
3.高付加価値化補助金事業の継続的な実施について
各地域が個性あふれる魅力を持った持続可能な観光づくりを進めていくために、高付加価値化事業は極めて有効であり、その効果が発現されている。補正予算案にも計上し、来年度以降も引き続き、計画的・継続的な実施をすること。特に廃屋の撤去に関しては、地域に残された事業者の努力だけでは前に進まないため、これ以上廃屋を生まない仕組みづくりなど、国、自治体による廃屋撤去を含む地域づくり支援を講じること。
4.災害対応について
宿泊施設における災害対応に資する設備の更新や改修に要する費用について、宿泊料金への価格転嫁がなされていない場合が多い。宿泊施設バリアフリー化促進事業等について、災害協定枠を維持した上で、引き続きの支援を講じること。特に激甚災害指定を受けていない地域においても、1カ月近く休業を余儀なくされている施設も多く存在している。そのような地域や施設が希望をもって営業ができるように災害地における「復興割の実施」ならびに、各種申請についての簡素化など特段の配慮をすること。
5.人手不足対策について
回復しつつある宿泊需要を取りこぼすことのないよう、以下の対策を講じること。
・求職者と宿泊事業者とのマッチングイベントの開催など採用活動の支援。
・宿泊施設で働く外国人の希望者は多いものの実際には外国人雇用が進んでいない。外国人材の積極的な活用に向け、宿泊業技能試験センターによる、国内外におけるPR活動について、国も支援をすること。
・人材不足の状況下でも高付加価値なサービスの提供が可能となるよう、清掃・配膳ロボットやスマートチェックイン機などの人手不足対策に資する設備投資への支援を加速、拡大すること。
【内田誉紀】
斉藤国交相に緊急提言書を手渡す赤羽会長