今回はちょっと脇道にそれて、筆者が感動した体験をお話ししたい。
前回、「(3)接客に心を添える」と題した話の中で、「相談、困りごとなどがあれば、それはチャンス」「お体の不自由な方、帰りの交通、立ち寄るべき見どころやランチのお店、悪天候の際の不自由・不安、忘れ物・落とし物など…」と書いたが、まさにそれに当てはまる体験をした。
仕事で鹿児島県の指宿を訪ねた折、「指宿のたまて箱」号という特急列車に乗った。薩摩半島に伝わる浦島伝説にちなんで仕立てたそうで、駅到着時には、玉手箱の煙に見立てたミストを噴き出す。海岸に沿って走る特性を生かして、大半の座席が海側に向かって配されている。この他にもいろいろと趣向が凝らされているが、ハードはここでの趣旨ではないので省く。
わずか2両編成の列車に、若い女性の「客室乗務員」―つまりキャビン・アテンダント―が2人乗務している。桜島がきれいに見える場所では、「ただいま桜島が…」など、道々車窓の眺めを案内してくれる。
飲み物や土産品などの車内販売も彼女らがこなす。また途中で「記念乗車証」なるハガキ大のスタンプ台紙が配られる。1号車、2号車それぞれに絵柄の違うスタンプが設置されていて、押しに行かせる仕掛けだ。
ご存じの向きも多いことと思うが、JR九州ではこのような遊び心あふれる列車が他にもいくつかある。以前、「ゆふいんの森」号も体験したことのある筆者にとって、ここまでは「なかなかいいサービス」というぐらいの印象である。
「ほぉ~っ」と思ったのは、これらのことをマイクによるアナウンスだけでなく、客席を回って直接語りかけることだ。しかも思い違いでなければ、乗客一人一人の脇で「屈みこむようにして」やっていたかと思う。だがさらに…。
この列車が、路線で発生した事故のためにかなりの時間、途中停止するはめになった。すると、くだんの乗務員さんが「乗客一人一人に」お詫びをしながら状況説明をして回る。2度目か3度目に回って来た時には、「せめてこれでお気を紛らしてください」と、オリジナルの飴(あめ)を一つ渡してくれた。
しばらくして列車はいったん動きだしたが、また停止。するとまたしても申し訳なさそうにお詫びと状況説明。そして今度は片手一握りほどの数の飴を目の前に置く。列車の遅れに対するいら立ちも忘れて、筆者は思わず「あなた方もたいへんですね」とねぎらいの言葉をかけた。
飴はあくまでも小道具である。またうがった見方をすれば…少なくとも日本の飛行機内サービスなら、これは普通のことかもしれない。さらに、これは座席数が少ない上に、2車両に2人も乗務しているからできることだ、とも言える。だが、一所懸命に状況を伝え、申し訳ない気持ちを表すその表情(マスク越しだったが)やひたむきさに感動を覚えたのだ。まさにトラブルを通じて筆者自身の「心」が取り込まれた瞬間だった。
ちなみに、後でご当地の方から聞いた話では、この特急列車はドル箱になっているとのことである。
JR九州の企業努力と、誇りをもってホスピタリティを示してくれた現場の客室乗務員さんに、敬意を表したい。
(リョケン代表取締役社長)