【地域創生と観光ビジネス68】岩手久慈「三陸観光フォーラム」で〝トレイン&トレイル〟推し 淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子


 NHK朝ドラ「あまちゃん」の舞台となった岩手・久慈で年末、さんりく基金・三陸DMOセンター主催の「三陸観光フォーラム」が開催され、その基調講演に登壇した。会場となった久慈市総合福祉センターの講堂は100名を超す聴衆であふれ、当地の観光への期待の高さを感じさせた。

 講師冥利に尽きたのは、内陸の盛岡や花巻はもとより南リアスの大槌や釜石、さらには岩泉町や住田町からも遠路、多くの方が聴講に駆けつけてくださったこと。後半のシンポジウムも含め、質疑応答や名刺交換会も活発で、「北リアスと南リアスが一つになった」と言って喜ぶ人もいた。

 岩手は北海道に次ぐ面積を誇るだけに、地域によって食文化や方言も異なる。仙台空港に近い宮城三陸とは違い、岩手三陸沿岸にはインバウンドの空白地帯が少なくない。それぞれの個性を生かしつつ手を取り合おうというムードが、広まり始めているのを実感した。

 かつて日本人が大挙して欧州のツアーに繰り出した時代、「ロン・パリ・ローマ」の商品が爆発的にヒットした。筆者も添乗員として幾度か引率したことがあるが、それぞれの滞在はわずか1、2泊で、すぐに次の都市へと移動するから時差ボケ解消どころではない。やがてドイツ・ロマンチック街道やエーゲ海クルーズなど、都市型観光とは異なる新ルートが造成され、飛ぶように売れた。

 わが国のインバウンドもまた、都市型観光からテーマ型観光へと変遷をたどるであろう。例え今は空白地帯でも、工夫次第で誘客できる可能性を秘めている。飛び地連携や広域観光に商機を見いだすことができるはずだ。

 今期、カナダの旅行会社がツアー造成してシリーズ化している商品をご存じだろうか。関空インで人気の京都、そこから秋田空港へと飛び、乳頭温泉を経由して岩手・浄土ヶ浜に、そして盛岡から東京へと移動してアウトする高額商品が売れている。

 その行程で注目したいのが、「みちのく潮風トレイル」である。こうした自然資源を活用した観光は、ウエストバウンドに刺さる絶好の観光資源として今後、ますます注目されるだろう。イマーシブ(没入感)な体験を加味して、地域の「宝」として磨き上げていくとよい。

 また、急峻なリアス海岸を南北に結ぶ三陸鉄道を利用した「トレイン&トレイル」が今後、国内外から注目されるものと予感する(実は今年中に、筆者も挑戦したいと考えている)。

 欧州でサステナブルツーリズムが叫ばれるようになった15年前、スイス政府観光局の取材でユングフラウ一帯を訪問した。グリンデルワルトを起点に鉄道を乗り継いでソフトハイキングを楽しみ、ときには地元料理の手ほどきも受けた。滞在したのは築100年を超すシャレー(山小屋)。だが、内部は奇麗にリノベートされていて、高級コンドミニアムのように家電製品もそろう。食材を買って自炊もした。生涯心に残る取材旅だった。今でも当時の執筆記事がインターネットで閲覧できるので、興味があれば検索を。

 末筆となるが、三陸DMOセンター長・中野文男氏と同事業部長の髙橋利明氏には、この場をお借りして御礼申し上げます。

 (淑徳大学学長特別補佐・経営学部学部長・教授 千葉千枝子)


(観光経済新聞1月13日号掲載コラム)

 
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