「KIHACHI」ブランドの創業者、ムッシュこと熊谷喜八シェフが、素晴らしい天ぷらを食べさせる店があると、某会合にお誘いくださった。メンバーが集ったのは、明治記念館内のレストラン「羽衣」。テーブル席のほか、すし・鉄板焼き・天ぷらの3種のカウンターがある、珍しい造りだ。
明治記念館は、明治神宮の総合結婚式場として昭和22(1947)年に開館した。実はその歴史は古く、明治14(1881)年に「赤坂仮皇居御会食所」として建てられた。その後、2度の移築や関東大震災、第2次世界大戦にも耐えてきた現在の明治記念館本館は、東京都指定有形文化財である。
天ぷらカウンターを取り仕切るのは、新井鐵悦(てつよし)氏。まずは、さっきまで水槽で泳いでいたであろう、車エビの頭部からスタート。カリッと揚がっていて、超美味♪ 続く天ぷらコース全体への期待感爆上がりだ。
エビ本体もおいしかったのは言うまでもない。お隣でムッシュがおっしゃるには、食材によって揚げ鍋に入れる位置が違うのだそう。また、太白ごま油100%だから、たくさん食べても胃もたれしないという。油は加熱によって酸化が進むが、太白ごま油は加熱に強いため、いわゆる「油臭さ」が気にならないのだ。
お次は熊本県産アスパラガス。ムチャクチャ太くて立派なアスパラを丸ごと天ぷらにして、一番下を紙で包み、そこを持っていただく。カウンターには天つゆと七味、3種の塩が用意されていたが、その一つカレー塩をつけるのがおススメとのこと。こんな天ぷら、食べたことがない! ひと口かじれば、アスパラのジューシーさに驚く。火の入れ方が絶妙なのだ。
続いて、キス。普通は背開きにしたまま揚げるが、ここでは開いていない。モチロンいったん開き骨は除いてあるが、また閉じてから揚げるのだ。ムッシュいわく「だからキスの味が強い」。
イチジク、対馬のタチウオ、シイタケと続き、トウモロコシのかき揚げの後、またしても見たことのない天ぷらが。長方形のそれは、なんとホタテ! 縦に入っている繊維を生かして割くことで水分が抜け、甘くなるのだそう。目からウロコだ。
アナゴの天ぷらも、他店とは違う。揚げたてに、ほんの少しおしょうゆをかけ、ワサビを添えて提供されるのだ。天つゆで食すよりアナゴの風味が濃く感じられ、塩でいただくよりサッパリ食べられるから不思議だ。
締めは芝エビの天バラ丼。あえてかき揚げにせず、1尾ずつ揚げるのが新井氏のこだわり。ふっくらした芝エビは甘みがあって激ウマ。お腹いっぱいでもペロリと完食してしまった。
途中、テーブル席の天丼の調理過程を拝見。その大きさにビックリ! 「写真より大きくないと」とお茶目な笑顔を見せた新井氏。大根おろしは、おろして3~4日おくという。ガスが抜けて甘みが出るそうだ。こうした調理人との会話も、味付けの一つ。カウンターならではの楽しみだ。ムッシュ大絶賛のこだわりの天ぷら、また行こうっと♪
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。