【一寸先は旅 人 宿 街 28】観光メディア団体、今こそそこにある危機 神崎公一


 高齢化と人口減少への対応が喫緊の課題。日本や韓国などで顕著になり、将来の国力に影響するとして、しばしば議論されていることは読者の皆さんもご存じだろう。

 旅とは関係なさそうな硬い話題となったが、旅行・観光関連メディアの団体にも当てはまる深刻な問題だ。「人口減少」を「会員数減少」と言い換えれば、程度こそ違うが、危機的状況であることに変わりはない。

 内情を記そう。筆者が理事を務めている日本旅行作家協会、そして旅行読売出版社時代に所属していた日本旅行記者クラブの二つの組織では、会員数の減少が悩みのタネで、新規加入者の開拓、特に中堅若手の会員の増加に向けて議論が繰り返されている。

 「旅のスペシャリスト集団」を掲げる日本旅行作家協会(下重暁子会長)は、旅行に関する作家や編集者、カメラマン、翻訳家らが集い活動を展開している。海外旅行ブームを巻き起こしたテレビ番組「兼高かおる世界の旅」で世界を飛び回った故兼高さんを名誉会長に、旅に関する啓もう活動や優秀な著作を顕彰する「斎藤茂太 旅の文学賞」事業などを行っている。海外の観光局や大使館とのつながりも強く、海外視察旅行も行っている。

 一方、日本旅行記者クラブは旅行関連の出版社、編集プロダクションそしてフリーランスの旅ライターが加盟している。組織として、全国道府県の観光担当者と定期的に情報交換の場を設けていたり、地方へ出かけたりして、そこで得た情報をもとに記事を書いて各メディアに掲載している。温泉、アウトドア、鉄道旅、グルメなど得意分野を有するメンバーも多い。また、信州や北海道、北陸など特定の地域に強いライターも存在する。

 読売や朝日など全国紙やテレビ各局が加盟する記者クラブは、メンバーが1―2年で入れ替わる。それに比べ、上記の二つの団体は、豊富な経験と専門的な知識があるメンバーが、長い間携わっており、会としても、個人としても旅行・観光業界にネットワークを築いているのも強みだ。本紙読者の皆さんも、腹を割って付き合えるなじみの記者らとの交流は望んでいるはずだ。

 このように具体的に両団体の活動ぶりを記したのは、取材や執筆などを通じて、彼らが地方自治体や観光協会などと旅行メディアとの橋渡し役を担っていることを伝えたいからだ。そうした役割があるにもかかわらず、会員数が減っていくことは、これからますます産業としての重要性を増す観光関連の情報発信の機能が薄れていくのではないかと、筆者は心配している。

 確かに、最近の旅行ライターはブログなどSNSで発信することが可能で、パソコンやスマホ1台あれば、個人でも十分活動できる。動画などを駆使して、臨場感あふれるコンテンツを紹介しているブロガーやインフルエンサーも目立つし、新たなデジタル発信の手法も広がるかもしれない。それを否定するつもりは毛頭ないが、やはり経験豊かなライターや旅の作家が味のある記事や紀行文を書く機会が、もっと増えてほしいと願っている。

 (日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長)

 
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