電通総研と同志社大学は3月26日、「世界価値観調査2019」日本結果を発表した。
株式会社 電通グループ(本社:東京都港区、代表取締役社長執行役員:山本 敏博)の社内組織である電通総研※1(所長:谷 尚樹)と学校法人同志社 同志社大学(所在地:京都府京都市、学長:松岡 敬)のメディア・社会心理学研究分野の池田研究室※2(教授:池田 謙一)は、「世界価値観調査」の日本調査(2019年9月実査)に参画し、人々の意識の変化について時系列比較などの分析を行った結果を発表しました。「世界価値観調査」は1981年に開始され、現在およそ100カ国・地域の研究機関が参加している国際的な調査です。今回の諸外国・地域における調査は未完了ですが、日本における調査は昨年完了したため、その結果を先行して発表するものです。結果の概要は以下のとおりです。
注:本調査実施時点では新型コロナウイルスの発生は認識されていなかったため、その影響は反映されておりません。
《調査結果の概要》
・「働く」ことの優先順位が低下。「仕事」への意識が大きく変化。
・自分の「人生を自由に動かせる」意識、増加。若年層に顕著。
・ダイバーシティを尊重する意識、9年前に比べ向上。
・幸福度と生活満足度は微増で維持。
・ジワリ広がる格差。生活レベルの意識は「上」「下」が微増。
・21世紀は「日本文化や伝統的価値観」を尊重しつつ、世界と協調する時代に。
・「政治への関心」はこの9年前に比べ減少。若年層ほど政治への意識は低い傾向。
《調査結果についてのまとめ》
今回の調査結果からは、人々の意識は大きく変化しているにも関わらず、それが必ずしも社会変革や政治への関心に結びついていないことが浮き彫りとなりました。
「人」の意識や行動の変容は、人々が形成する「社会」の質(“クオリティ・オブ・ソサエティ”)に大きな影響を与えると思われます。日本のみならず世界が直面する社会課題は山積しており、電通総研と同志社大学 池田研究室は今後も、人の意識や行動の変容を把握しながら、望ましい将来像やその実現のシナリオを探索する“クオリティ・オブ・ソサエティ”の活動を推進してまいります。
《調査結果の主な考察》
前回調査の2010年からの9年間で大きく変化したのが「仕事」や「働く」ことの意識(下記1参照)であり、「働くことがあまり大切でなくなる」ことを「良いこと」「気にしない」とする答えが倍増しました。それと連動するように「人生を自由に動かせる」と感じる人(下記2参照)も増え、若年層ほどその比率が高くなりました。また、ダイバーシティを尊重する意識(下記3参照)については、同性愛やジェンダー意識などの回答から、多様性が尊重される方向に大きく変化したことがわかりました。
他の意識が変化する中でも、初回調査から高水準を維持する幸福度と生活満足度(下記4参照)は、今回も同水準で、前回調査から微増となりました。一方、生活レベルの意識(下記5参照)については「中」の比率は変わっていないものの、「上」と「下」の双方が少しずつ増加してきています。
「日本文化や伝統的価値観」(下記6参照)への意識は引き続き高く、自国の価値観を大切にしながら世界との協調・歩み寄りを望む意識が明らかになりました。「政治への関心」(下記7参照)の高まりは見られませんでした。
調査結果の主なトピックスとデータは以下のとおりです。
《主なトピックスとデータ》
1.「働く」ことの優先順位が低下。「仕事」への意識が大きく変化。
9年前の前回調査(2010年)と比較すると、生活における仕事の重要度が約4ポイント下がり(2010年84.2%⇒2019年80.0%)、同時に「働くことがあまり大切でなくなる」ことを「良いこと」「気にしない」とする答えが倍増する(合計値で2010年21.1%⇒2019年42.6%)など、仕事や働くことに対する日本人の意識が顕著に変化しました。
2.自分の「人生を自由に動かせる」意識、増加。若年層に顕著。
「人生を自由に動かせる」と感じる人が前回調査に比べて増加(2010年50.0%⇒2019年58.4%)し、特に若年層ほど高い自由度を感じている傾向が顕著となりました。
3.ダイバーシティを尊重する意識、9年前に比べ向上。
他者に対しても多様性を尊重する方向に大きく変化しており、例えば同性愛について「正しい(認められる)」という回答が増加(2010年33.2%⇒2019年54.4%)、調査開始から初めて半数を超えました。ジェンダー意識についても「男性の方が経営幹部や政治の指導者として適している」という項目について大半が「反対」と回答(経営幹部2010年42.7%⇒2019年63.6%、政治の指導者2010年37.3%⇒2019年54.4%)しましたが、これも調査開始以降初めてのことです。
4.幸福度と生活満足度は微増で維持。
前回調査(2010年)と比較すると、幸福度(「幸せ」が2010年86.5%⇒2019年88.3%)や生活満足度(「満足」が2010年73.8%⇒2019年74.4%)は微増しました。他の意識が変化する中でも、幸福度と生活満足度は高水準で維持されています。
5.ジワリ広がる格差。生活レベルの意識は「上」と「下」が微増。
「自分の生活の程度」を時系列にみると、ボリュームゾーンである「中の中」がダウントレンド(1990年56.3%⇒2019年42.2%)を示し、「下」が一貫して増加し続け(1990年5.1%⇒2019年9.6%)、「上」が初めて1%を超えました(1990年0.5%⇒2019年1.5%)。幸福度や生活満足度が比較的高く維持されているにも関わらず、社会的ポジションにおいて「上」と「下」の意識がこの29年間を通じてわずかながらも増加傾向にあることは、今後も変化し続ける可能性を示唆しており、今後の推移が注目されます。
6.21世紀は「日本文化や伝統的価値観」を尊重しつつ、世界と協調する時代に。
自国の価値観を大切にしながら世界との協調・歩み寄りを望む意識が明らかになりました。21世紀の日本及び日本人はどうあるべきかを尋ねたところ、「日本文化や伝統的価値観を大切にすべき」との回答が91.1%、「アジアの国々との交流を深め、頼りがいのある国へ」「日本のやり方の良さを世界に広める」「外国人に理解されるように変化」への「そう思う」の回答が過半数を占めました。
7.「政治への関心」はこの9年で減少。若年層ほど政治への意識は低い傾向。
また、生活における「政治」の重要度(「重要」が2010年66.1%⇒2019年64.3%)や政治的関心度(「関心あり」が2010年65.5%⇒2019年59.8%)が、9年前と比較すると停滞もしくは減少しており、特に若年層になるほど政治の関心度が低い傾向にあります。
なお、調査レポートは次の電通総研ウェブサイトから無料でダウンロードできます。
URL:https://institute.dentsu.com/articles/1019/
《調査概要》
「世界価値観調査」は、世界のおよそ100カ国・地域の研究機関が参加し実施している国際プロジェクトで、同一の調査票に基づき、各国・地域ごとに全国の18歳以上男女1,000サンプル程度の回収を基本とした個人対象の意識調査です。対象分野は政治観、経済観、労働観、教育観、宗教観、家族観など約90問190項目という広範囲に及びます。電通総研は、第2回の1990年からこのプロジェクトに参画し、今日に至るまで日本における調査と分析を行ってきました。
調査実施機関:日本リサーチセンター
※1:電通総研について
電通総研は、2020年1月に「株式会社電通グループ」(純粋持株会社)の内部組織となり、2019年4から“クオリティ・オブ・ソサエティ”をテーマに活動を継続しています。
「人」と「社会」がどのように変容しつつあるかを把握し、望ましい将来像やその実現のシナリオを探索するために、「世界価値観調査」をはじめ、先駆的かつ独自の観点による知見の蓄積に努めています。
※2:池田研究室について
組織名:同志社大学 社会学部 メディア学科 池田謙一研究室
代表者:教授 池田 謙一
研究内容:メディアコミュニケーション、政治社会心理学の再構成、社会のリアリティの社会心理学
的研究