【ちょっとよろしいですか 144】超高齢化社会において、「入浴介助サービス」の重要性 山崎まゆみ


 コロナが落ち着き、最近は高齢者を囲む3世代、4世代旅行が増えてきているのではないでしょうか。ある地域からは、「遠方で暮らす親族が集結して、99歳のおじいちゃんを囲む旅行を受け入れたら38名の団体だった」という話を聞きました。読者の皆さんも必要になってくるのではないかと考え、今回は入浴介助サービスのシステムについてご紹介します。

 入浴介助サービスとは、高齢者や障がい者に安心して入浴してもらうためのサポートのことです。そもそも浴場はせっけんやシャンプーなどで滑りやすい環境にあります。

 このサービスを受ける人にとって、旅先は不安だらけ。慣れてない(初めて体験する)宿の浴場という一つ目の不安。温泉の成分によって床が滑りやすく転んでしまうのではないかという二つ目の不安。これらの不安で温泉入浴を控える傾向にあります。

 また、家族が入浴の手伝いをしたとしても、慣れない浴場ですから、家族の方が冷や汗をかくこともしばしば。

 でも、温泉旅行で不安を抱えるなんて、ナンセンス! その点、もし宿泊先で入浴介助サービスを受けられる選択肢があれば、お客さんは非常に喜ばれるはずです。

 入浴介助サービスの先駆けは、佐賀県嬉野温泉の「佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター」で、10年ほど前から既に実施していました。地元の介護事業者に属するヘルパーさんが2人付き、宿泊施設のお風呂か公共のお風呂で入浴介助をします。

 ただ、これには事前準備がとっても大切。利用者は、最初に「佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター」に問い合わせをして申し込みます。この時点で、センターの職員が入浴介助を受ける人の身体の状態などを聞き取り、入浴介助をするヘルパーさんに情報共有します。場合によっては、滑り止めのマットや着脱式手すりやステップ台、浴場用の車いすも用意します。

 こうした入念な準備をするからこそ、当日は家族も入浴介助を受ける人も、安心して温泉入浴を楽しめるのです。

 静岡県東伊豆の「トラベルヘルパー東伊豆」の皆さんも、入浴介助に長く取り組まれてきて、お客さまに大好評です。今では長野県諏訪地域、鹿児島県鹿児島市などでも受けられ、神奈川県箱根地域でも開始されます。料金は90分で1万5千円が相場で、2万5千円の地域も。

 さらに、地域の福祉事業者に協力していただくことが最も重要です。11月から兵庫県城崎温泉でも、「湯あみヘルプサービス」が開始します。先日、キックオフセミナーがあり、お招きいただきましたので、私からは入浴介助の必要性をお話ししてきました。城崎の発起人は、地元で就労支援の事業を展開されている「特定非営利活動法人ぷろじぇくとPlus」の衣川勝海さんです。「福祉畑のわれわれが、観光客と接点を持ち、喜んでいただけるなんて」と衣川さんは顔をほころばせます。

 私は、福祉の分野も人手不足なので、地域の方へのサービスで精一杯となり、とても観光客まで手が回らないのではないかと思い込んでいましたが、衣川さんをはじめ、諏訪や鹿児島で取り組んでいるへルパーさんの熱心で真摯(しんし)な姿を見るにつけ、観光と福祉のタッグが成立すれば、お客さまは間違いなく喜んでくれるなぁと感じています。

 ちなみに衣川さんたちが「親孝行したいときは城崎へ!」というキャッチコピーを掲げて実施しているのは、入浴介助サービスの他にも、温泉街の散策用に電動車いすの貸し出し、そしてセパレート式の浴衣の貸し出しです。「日本一浴衣の似合う温泉街」をうたう城崎温泉らしいもてなしですね。

 各地で入浴介助に取り組む際、私にも声をかけていただくのは、2019年に刊行した自著『行ってみようよ!親孝行温泉』に賛同してくださってのご縁です。
   
(温泉エッセイスト)

 
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