推進の方向性探る
障害者や高齢者、外国人など誰もが楽しめる旅行環境づくりを目指すユニバーサルツーリズム。長野県阿智村と阿智昼神観光局が主催するユニバーサルツーリズムのシンポジウムが7日、阿智村コミュニティ館で開かれた=写真。有識者による講演やパネルディスカッションが行われ、旅行市場としての可能性、先進地の動向、推進の方向性などを探った。
阿智村は、昼神温泉郷、星空観賞ツアーなどの人気で年間観光客数は約130万人。ユニバーサルツーリズムに関しては、昨年10月に開いたセミナーを契機に環境整備を模索。今年9月には、介護の専門家が観光や入浴を支援するサービス「昼神プレミアムサポート」もスタートした。
シンポジウムで阿智村の熊谷秀樹村長は「どんな方にも旅を楽しんで元気を出してもらえる観光地にしていきたい。旅行業者や受け入れ関係者だけでなく、村民全体、そして長野県、日本全体がそういう気持ちになっておもてなしができるとよい」とあいさつした。
有識者が基調講演などで提言。観光庁観光産業課の神村正巳課長補佐は、人口減少や少子高齢化の中、高齢者などの旅行市場に注目。「健康上の理由で旅行に出掛けなくなる方は多いが、移動の円滑化や宿泊施設における配慮など、旅行環境を整えることでシニア層の旅行回数を維持できる可能性がある」と指摘した。
近畿日本ツーリスト首都圏ユニバーサルツーリズム推進担当、伴流高志氏は、ユニバーサルツーリズムの先進地の動向について「バリアフリーマップの作成など情報の収集・発信の段階から、地域の特性を生かした旅行介助サポートへと取り組みのシフトが見られる。サービスの品質向上と広域での均一化が継続的な発展のポイントとなる」と提言した。
奈良学園大学教授の池田耕二氏、北大阪ほうせんか病院・理学療法士の喜多一馬氏は、旅行に配慮が必要な高齢者などへのインタビュー調査から「温泉旅行がリハビリテーションのソフトインフラとして成立する可能性」について解説した。
パネルディスカッションは、けん引式車いす補助装置を開発したJINRIKI代表取締役の中村正善氏をコーディネーターに、パネリストとして村内外で福祉や観光に関わる中山陽平氏(わくわく代表取締役)、牛山玲子氏(ユニバーサル・サポートすわ代表)、橋本剛氏(別府・大分バリアフリーツアーセンター)、山本昌江氏(はぐカフェ)、白澤裕次氏(阿智昼神観光局代表取締役)の5人が登壇。「ユニバーサルツーリズムが社会を変える」をテーマに意見交換。旅行者の体験の価値を高めながら収益を上げる持続可能なサポートビジネスの必要性、ユニバーサルツーリズムを通じた地域全体の意識変革、人材育成の重要性などが提言された。