新しいビジネスモデルの構築を支援する観光庁の観光産業イノベーション促進事業に採択された6件の実証事業がそれぞれスタートする。このうち3地域を舞台に展開される事業がいずれもユニークだ。地元の文化を観光資源に活用した早朝ツアー、宿泊需要の拡大に向けて平日に特化した宿泊プラン、「転泊」を促進する予約サイトなど、新たな試みの実証に取り組む。
□青森・八戸
青森県の八戸観光コンベンション協会と八戸広域観光推進協議会は、「はちのへ『朝めし』『朝ぶろ』による朝の新規需要創出事業」を展開する。八戸の文化である朝市と、早朝営業している銭湯に着目。八戸市内の宿泊者を対象に、乗合タクシーによる朝市、銭湯巡りの早朝ツアーを実施し、需要を検証する。
朝市は市内9カ所で開かれている。山海の幸が並び、水揚げされた魚をその場で調理してもらい、食べることができる朝市もある。また、市内には温泉を含めて銭湯が約40軒あり、漁師町だったことから、午前5、6時から営業している銭湯も20軒近くある。
この朝市、銭湯を巡るツアーを企画。宿泊施設のフロントで申し込むと、タクシーの乗り合いで朝市、銭湯へ。朝食は宿泊施設から分離し、朝市の味を堪能してもらう。事業に参加する宿泊施設は10軒程度を予定。
市内の宿泊施設はビジネスホテル形態が多く、現状では宿泊客の8割がビジネス客。まずはビジネス客をメーンターゲットに設定し、朝市、銭湯を体験してもらい、その魅力を広めていく。
八戸観光コンベンション協会の安原清友事務局次長は「朝市、早朝銭湯は、市民にはあたり前の光景だが、旅行客には珍しいはず。実証事業のツアーを通じて反応を確認してみたい」と語る。
実施期間は11月から来年2月まで。300人の利用を見込んでいる。
□神奈川・湯河原
神奈川県の湯河原温泉旅館協同組合(92軒)は、深夜にチェックインできる変則型1泊2食付きの宿泊プランを販売する「今夜は温泉へ帰ろうプロジェクト」を推進する。大都市に近い利点を生かし、平日の新たな宿泊需要を掘り起こす。
湯河原温泉は、東京の中心部から特急列車「踊り子」などで1時間半足らずの立地。平日に1日の休みしか取れない職業に就く現役世代でも、仕事後の出発で深夜にチェックイン、翌日に温泉や食事を楽しんでもらえるようにする。食事は朝と昼、または朝と夕などの組み合わせにした特別のプランを打ち出す。
実証事業は、じゃらん(リクルート)と共同で実施する。宿泊プランはじゃらんの予約サイト、旅館組合のホームページなどを通じて販売する予定。説明会を開いて参加旅館を募る。
旅館組合の渡辺誠司事務局長は「湯河原温泉の宿泊客の8割ぐらいは、東京や横浜など都市部から来ている。宿泊プランづくりを工夫すれば、新たな需要を開拓し、平日の稼働率を高められるのではないか」と期待する。
□宮城・東鳴子
宮城県の東鳴子温泉の温泉旅館らは、「ニッポン湯治村」(JapanTojiVillage)事業を実施する。湯治文化をウェブサイトを通じて国内外に発信するとともに、連泊需要を掘り起こすため、複数の旅館を泊まり歩く「転泊」をウェブで予約できるシステムの実証を行う。
インターネット上に「ニッポン湯治村」のサイトを立ち上げ、湯治のさまざまな体験スタイルを紹介する。英語版のページも開設し、外国人に対する湯治文化の情報発信と誘客にも取り組む。
ウェブサイトに設ける予約システムには、東鳴子温泉の旅館3軒、隣県の山形県から肘折温泉の旅館1軒が参加する予定。転泊を促進するため、例えば、東鳴子温泉のA旅館に2泊した後、肘折温泉の旅館Bに1泊するといった予約が簡単にできるようにする。
ウェブサイトは12月下旬に開設し、観光協会のホームページなどを活用し宣伝する予定。宿泊客の利用目標は2カ月間で100人を目指す。
実証事業に取り組む東鳴子温泉の大沼旅館・大沼伸治社長は「湯治という言葉になじみの薄い若い人や、日本に興味を持つ外国人に、湯治が誰でも手軽に楽しめる保養文化だと知ってもらいたい。転泊を促す予約システムと合わせて成果を挙げたい」と話している。