観光庁は10日、東日本大震災で被害が大きかった岩手、宮城、福島3県の旅館・ホテルを営む女将を招き、宮城県南三陸町の南三陸ホテル観洋で、意見交換会を開いた。交換会を前に、久保成人観光庁長官、永松健次東北運輸局長、渥美雅裕東北地方整備局副局長をはじめ、これら幹部職員と、3県の女将代表らの約30人がバスで「語り部ツアー」に参加。津波で被災し、これまで立入禁止になっていた結婚式場の「高野会館」や「南三陸防災対策庁舎」、三陸町の旧中心部を視察して回った。
会合の冒頭、久保長官は「震災復興に向けての、観光の果たす重要性については強く認識している。道路、鉄道などの社会的インフラは一定の復興は進んだが、観光振興に関しては道半ばだ。この機会に皆さんの意見をうかがいたい」とあいさつ。引き続き、女将ら7人が現状を報告、それぞれの取り組みについて意見を交換した。
ホテル対滝閣(岩手県湯本温泉)の大澤幸子さんは「震災当時を振り返ると今は夢のようだ。しかし沿岸部と比べ復興のスピードが遅い。岩手希望の宿のネットワークを立ち上げ、企画商品を造成、販売している。次世代への事業継承が大切だ」と述べた。
宮古セントラルホテル熊安(同県宮古市)の熊谷礼子さんは「営業再開まで2カ月かかったが、全国から支援をいただき、光が見えたことに感謝している。今後は、他県との連携強化と地域づくり、人材育成に向け前に進みたい」と話した。
ホテル松島大観荘(宮城県松島温泉)の磯田悠子さんは「松島は島々が岩礁堤となって、被害は少なかった。当時、私達に課せられた役割は復興支援隊の受け入れと判断し、復旧・支援要員に限って対応した。営業的には震災前には戻っていないが、広域連携をして宮城を引っ張っていきたい」と語った。
南三陸ホテル観洋(同県南三陸温泉)の阿部憲子さんは「衣、食、住を提供する職業は、災害の時には大切な役目があることを実感した。千年に1度の震災は、千年に1度の学びのチャンス。観光の力で地域創生に取り組み、さらなる交流人口の拡大に努めたい」と述べた。
旅館源兵衛(同県遠刈田温泉)の佐藤久美子さんは蔵王山の風評被害について言及。「火口から12キロ離れているが、キャンセルが相次ぎ対応には苦慮している。蔵王の影響力の大きさを改めて実感した。蔵王山に偏らない観光資源の開発と、地域に密着した情報発信に努め、ふる里の魅力を伝えていく」と語った。
雨情の宿・新つた(福島県いわき湯本温泉)の若松佐代子さんは「原子力の事故後、客が激減し、32軒あった旅館が23軒に減少。観光客は震災前の約6割と厳しい。フラ(ダンス)と一体となったまちづくりと、復興の先を見つめ、明るく元気で魅力ある『まち』づくりに向けて頑張る」と述べた。
割烹旅館・天地閣(同県いわき市)の大平淑子さんは「震災時は前途に悲観したが、確実に復興は進んでいる。県民の希望は原子力事故の早期終息だ。福島デスティネーションキャンペーンから来訪者は増加しているが、小名浜への実質的な観光客は震災前の32%にすぎない。東北の良さと安心・安全を発信していきたい」と訴えた。
報告と取り組みを受けて久保長官が総括。「いざという時に大変重要な役割を担っているのが旅館、災害時の拠点になるのも旅館だ」と述べる一方、「豊富な観光資源をみても、東北へのインバウンドの実績があまりにも低い」として東北6県の官民連携の強化の重要性を指摘した。
観光立国推進閣僚会議で重視された観光の「稼ぐ力」についても説明。観光庁として、情報発信の態勢づくりを支援する考えを示した。
懇親会には、佐藤仁南三陸町長が駆けつけ、懇談した。
意見交換会であいさつする久保観光庁長官