国土交通省は旅館・ホテルなど不特定多数の人が利用する大規模施設について、2015年末までに耐震診断をするよう義務付け、診断結果を公表する耐震改修促進法の改正案を今国会に提出する予定だ。全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)は2月28日、緊急の記者会見を開き、改正案の内容を憂慮する声明を発表。旅館・ホテルの負担を軽減する施策を求める方針を示した。
改正案は、旅館・ホテル、病院、店舗など、不特定多数の人が利用する施設のうち、5千平方メートル以上の建物について、2015年末までに耐震診断を行うことを義務化するもの。1981年以前の旧耐震基準で建築された建物が対象。国交省は「現在精査中」とするが、全国で約600軒の旅館・ホテルが該当するとみられる。
耐震改修促進法は阪神淡路大震災で旧耐震基準の建物の多くが倒壊したことを受け、1995年に施行された。旧耐震基準で建築された建物についても、新しい耐震基準と同等以上の耐震性能を確保するよう努めなければならないとしている。
国では、耐震診断や耐震改修を促進するために補助制度を創設している。地方公共団体(市町村)の補助制度がある場合、耐震診断には国と地方が費用の3分の1をそれぞれ補助し、事業者は費用の3分の1のみを負担。また耐震改修を行う場合は、国と地方が費用の11.5%をそれぞれ補助し、事業者は費用の77%を負担する。地方公共団体の補助制度がない場合は耐震診断、耐震改修ともに事業者の100%負担となっている。
国では今回の法律改正に伴い、補助制度を拡充する。耐震診断では、地方の補助制度がある場合、国が費用の6分の1を追加補助するなど、国と地方で費用の全額を最大限補助する。また地方の補助制度がない場合は、国が費用の3分の1を補助。事業者負担を100%から3分の2に軽減する。
また耐震改修では、地方の補助制度がある場合、国が21.8%を追加補助するなど、事業者の負担を最大33.4%まで軽減する。地方の補助制度がない場合は国が11.5%を補助し、事業者の負担を88.5%に軽減する。
ただ、全旅連では、地方の補助制度の有無で補助率に大きな差があることを問題視。耐震診断の場合、地方に補助制度がある場合は最大100%、ない場合は33.3%の補助率となる。国が市町村に対して補助制度を作らせる強制力がなく、各市町村に委ねられている。耐震診断への補助制度を持つ市町村は全体の約3割とみられる。
また2015年末までの3年間で診断を行い、さらに結果を公表することについても、営業的な影響が大きいとしている。
2月21日に開かれた全旅連理事会で、国土交通省住宅局が改正案を説明した。すでに同27日には自民党国土交通部会が改正案を了承。国交省は今月中の今国会への改正案提出を目指している。
全旅連によると、5千平方メートルの建物の場合、耐震診断で約600万円、耐震工事で2〜3億円かかるという。
佐藤信幸会長は「耐震化はわれわれも協力しなければならないのは十分分かっている。だが、現在の経営環境では、資金を出すのが容易ではない。市町村が(旅館・ホテルの耐震化に)協力する場合としない場合の差があまりにも大きい。さらに診断結果を公表するとなれば、営業を辞める施設も出てくるだろう。われわれにとっては死活問題だ」。
小原健史特別政治顧問(前会長)は「理事会でこの話を突然聞いてびっくりした。耐震化は必要なことだが、3年間の短い期間で診断をして、工事まで行うのは現場感覚からいってどうなのか。結果を公表されればお客さまが来なくなり、エージェントとの取引も停止になるところが出てくるだろう」。
今井明男副会長(東京都ホテル旅館生活衛生同業組合理事長)は「突然降ってわいたような話。資金の手当てが十分なく、(診断、工事を)行えということには、非常に義憤を覚える。もっと議論すべきだ」。
全旅連では組合員に事実の周知を進めるとともに、旅館・ホテルの負担をできるだけなくすよう国会議員らに陳情を続けていく方針だ。
会見する小原、佐藤、今井各氏(右から、全国旅館会館で)