水質汚濁防止法で定める、温泉排水に含まれるホウ素とフッ素の暫定排水基準の適用が6月末で切れ、7月から新たな基準値が適用されるのかどうかが焦点になっていたが、環境省は5日までに、現行基準のまま3年間(13年6月末まで)延長する方針を固めた。同省は排水処理技術の確立に向け実証試験を実施してきたが、除去装置の導入には課題も多く、新基準値を適用すれば旅館に多大な負担を強いると判断した模様だ。
ホウ素、フッ素は人の健康を害する可能性があるとされるが、国内の大半の温泉に含まれている。同省は01年に基準(排水1リットル当たりホウ素は10ミリグラム以下、フッ素は8ミリグラム以下)を定めたが、除去技術が確立されていなかったこともあり、温泉を利用する旅館業は規制が緩やかな暫定基準(ホウ素は500ミリグラム以下、フッ素は15〜50ミリグラム)が適用されていた。
その後も04年、07年と適用を延長してきたが、6月30日に期限切れを迎えるため、同省は全体検討会の下に「温泉分野検討会」を設け、見直すかどうかを検討してきた。
温泉分野検討会では、地方自治体担当部局などを通じて温泉の排水状況を把握する一方、排水処理技術の確立に向け、実証試験を実施した。具体的にはホウ素、フッ素、共存物質などの組成の特徴により排水を6種類に分類。その中から、ホウ素、フッ素の濃度が高く優先的に対策を進めていく必要があるとされた3種類の排水を対象に処理技術を公募、検証した。
その結果、「一定の処理能力が確認されたものの、導入にはさまざまな課題を有している」(水環境課)と評価された。つまり、「旅館側が求める(除去装置の)低価格化が、現状では実現が難しいということが分かったのではないか」とある旅館関係者は解説する。
旅館側はこれまで、排水処理技術の導入に多額の費用負担がかかることから「暫定基準が撤廃されれば、廃業に追い込まれかねない」として、暫定基準の延長を求めてきた。それだけに、今回の方針を評価する向きが強い。
同省は5日、暫定排水基準の考え方に対するパブリックコメント(意見募集)を開始した。5月4日まで受け付ける。これを踏まえ、6月上旬に改正省令を公布、7月1日に施行する予定だ。
滝多賀男・日本温泉協会会長の話 現行の暫定排水基準が継続の方向にあるということを聞き、安堵している。温泉には多様な物質が含まれており、処理には多額の費用がかかる。事業所ごとの対応では限界があるので、検討会の意見にもあったが、自治体の関与も含めて地域で集約して処理するという考え方もこれからは必要ではないかと思う。