民泊への当面の対応について厚生労働省は1月25日、有識者検討会の合意が得られたとして、旅館業法の簡易宿所の要件を緩和し、営業許可を取得しやすくする方針を決めた。4月1日の施行を目指して客室面積の基準を定めた政令を改正、玄関帳場(フロント)の設置を求めた通知も見直す。ただ、家主が居住する自宅を貸し出すような一定の民泊形態に関しては、より緩やかな規制の適用を求める意見もあり、中期的な課題として有識者会議で引き続き検討する。
住宅などを有償で旅行者に貸し出す民泊には、経済活性化への期待がある一方で、営業許可を得ていない違法営業が問題になっている。厚労省は、民泊に関する制度全体の構築に先行して、法改正などを伴わない現行制度の枠組み内で早急に対応できる当面の対策を模索していた。
当面、旅館業法の簡易宿所に求められている客室の延床面積33平方メートル以上という基準を見直し、定員1人当たりの面積など新たな基準を設定する。33平方メートルに満たない物件でも営業許可を取りやすい環境を整える。
家主不在の物件では、宿泊者の本人確認、緊急時の対応などを営業許可の条件とする方向。玄関帳場に関しては法令上の基準はないが、簡易宿所への設置を定めた厚労省の通知を見直す。厚労省によると、15都道府県が条例で簡易宿所に玄関帳場の設置を定めているが、公衆衛生上の支障がない場合は緩和できると規定した自治体もある。
また、簡易宿所の営業許可に当たっては、関係法令の遵守に加え、物件に応じて賃貸借契約、管理規約などに違反していないことの確認を求める。問題となっている賃貸物件の又貸し、マンションの管理規約への違反などの問題に対処する。
厚労省は、「民泊サービス」のあり方に関する検討会(座長・浅見泰司東京大学大学院工学系研究科教授)の第5回会合(1月25日)を踏まえて当面の対応に合意が得られたと判断した。簡易宿所の面積基準に関する旅館業法の政令改正に向けて、2月中にパブリックコメント(意見公募)を実施し、4月1日の施行を目指す。
ただ、当面の対応以外に、法改正や新制度の構築を伴う全体的な制度体系については引き続き検討する。論点の一つは、家主が居住する自宅の一部を短期間貸し出すようなホームステイ型民泊などの規制のあり方。より緩やかな規制が妥当とする意見があり、海外の事例などを参考に検討会で議論する。旅館業法に新類型を設ける案、届け出制など新たな制度を構築する案などがあるが、方針は決まっていない。
この他にも今後検討すべき論点として、旅行業法とも関連する民泊の仲介事業者への規制のあり方、宿泊施設の立地の制約に関連する建築基準法に基づく用途地域規制の取り扱いなどが挙がっている。
民泊の現場対応 自治体に不安も
1月25日に開かれた「民泊サービス」のあり方に関する検討会の第5回会合では、旅館業法の簡易宿所の面積要件などを緩和して営業許可を取得しやすくする当面の方針が固まったが、現場で対応を求められる自治体からは、不安の声も挙がった。
ヒアリングとして検討会から出席を求められた東京都港区の生活衛生担当者は「簡易宿所の許可取得の促進ではすべてを取り込むことは難しく、これまで通り(無許可で)営業する所が多いのではないか」と指摘した。
検討会委員の神奈川県副知事、吉川伸治氏は「国家戦略特区の民泊の要件との関係を整理する必要がある」「(制度対応が)2段階になると、内容や実施時期によっては、自治体の実務に大きな負担を伴う」と述べた。
また、ヒアリングで出席した新宿区の生活衛生担当者は、民泊の制度設計について要望。民泊を旅館業法に位置づけた上で、管理者が施設・敷地内に常駐し、宿泊者との面接を行う義務を課すことなどを求めた。無許可営業の施設のあっせん、予約を行う仲介事業者に対する法令に基づく適切な措置も要望した。
民泊問題を議論する有識者検討会(1月25日)