旅館・ホテル「今、何をすべきか」 新型コロナで観光業界の識者提言


休園中の上野動物園(東京都)。イベントや観光施設の営業自粛で人の動きが著しく停滞している

「お客さまと従業員の不安払拭」「今こそ原点回帰のもてなしを」

 新型コロナウイルスによる旅行の自粛が広がり、全国の旅館・ホテルが危機的状況を迎えている。政府が10日、中小企業への金融支援を盛り込んだ新型コロナ緊急対策の第2弾を打ち出したが、自らの経営を維持するための自助努力も一層求められる。今、旅館・ホテル経営者は何をすべきか。観光業界の有識者に聞いた。

 井門観光研究所の井門隆夫氏は「パートの方にお休みいただくなど、資金繰りを第一に、当面のコストを抑える」と、まず指摘する。

 次に、「今、考えておくべきこと」として、短期的には「パートの方をはじめ、従業員に報いるため、単価より稼働をいち早く復活させる」「シニア需要は消える恐れが高いので、より若年需要へとシフトする」、中期的には「労働力に頼らない事業モデルを考える。2食付きと素泊まりの2館併営など」「不要不急のレジャー需要ではない、現代人の悩みや願い解決モデルへと需要をシフトさせる」などを提言する。

 九州国際大学現代ビジネス学部地域経済学科観光ビジネスコース教授の福島規子氏は、「お客さまの不安を払拭(ふっしょく)することはもちろんだが、それ以上に経営者として『社員を守る』ための施策を目に見える形で従業員に提示し、実施することが重要と考える」。

 具体的には、「従業員食堂はお客さまの会食会場と同等レベルの注意が払われているか」「従業員が集まるお燗(かん)場や休憩室の換気は十分か」「子どものいる従業員は男女関係なく休みを与えているか」、そして「体調が優れない従業員が休みを言い出しやすい雰囲気があるか」など。

 「従業員に1人でも感染者が出た場合、状況は一変する」と福島氏。「お客さまに対するウイルス感染予防と同等レベル、もしくはそれ以上の対応をルール化し、『会社として従業員の安全を第一に考えている』という姿勢を徹底して示すことが不可欠だろう」。

 福島氏は「冷静にやるべきことを粛々とこなすこと。回復期フェーズに入ったときが勝負」とも指摘する。

 立教大学観光学部教授の東徹氏は、「大幅に減少した宿泊客を少しでも取り戻すことばかりを考えるのではなく、『こんな状況でも来てくれた宿泊客』を大切にすることだ」と指摘し、二つの取り組みを挙げる。一つは「宿泊客の滞在環境と、従業員の労働環境、生活環境も含めた衛生管理の徹底」。もう一つは、「『できる限りのもてなし』を提供し、宿での『経験価値』を高めてもらうことで再訪や口コミを期待する」。

 衛生管理は「直接顧客の増加にはつながらない、いわば『守り』の対策ではあるが、不可欠な取り組みだ」と指摘。「宿泊客の中から感染者が出ると、その影響は取り返しのつかないものになるかもしれない。影響が一時的なものにとどまらず、コロナ終息後も続き、経営を苦しめ続ける可能性すらある」。

 もてなしについては「『満足した顧客が最高の営業マンになる』ことを期待する。こんな時だからこそ、原点に回帰した取り組みを丁寧に行うこと。今、それに勝る取り組みはない」と強調する。

 立教大学観光学部教授の橋本俊哉氏は、人々が漠然とした不安を感じている中での旅行の特徴として、「旅行期間は『短縮』され、旅行先は『遠距離から近距離』へ、旅行内容は『新規から旧知』へと変更される」と、これまでの傾向を述べ、集客には「遠方よりも近場のお客さま、初めてのお客さまよりもなじみのお客さまに注力することが理にかなっている」とした。

 さらに訪れた宿泊客には「お客さまに安全に過ごしていただくために、館内の殺菌、消毒や換気を頻繁に行うなど、基本的なウイルス対策を丹念に行うことは必須。加えて、お客さまから安全対策について聞かれた際に、従業員が的確に答えられるよう、従業員間で十分に情報共有しておくこと」と提言する。

 橋本氏は「春の行楽シーズンを迎え、自粛ムードを拭い去って旅行したいと考えるようになれば、『安心』と思える宿泊施設を選ぶだろう。常連のお客さまは、たとえ今、お越しいただけなくても、旅館の状況を気に掛け、時期を見て泊まりに来て励ましたいと考えているはずだ。それに応えるためにも、安全確保に向けた日々の取り組みは欠かせないだろう」と述べている。【森田淳】


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