リョケンの桑原孝夫会長は12月12、13日に開いた「第135回旅館大学セミナー」で、「平成19年旅館の経営指針」を発表した。 平成19年を「自立喜働の時代」とし、「日本的経営の根幹である『人間尊重』と『長期的視野に立った経営理念の堅持』を果たすために、『自立した経営』が不可欠」と訴えている。その一部を紹介する。
商売は、時代のニーズや流行に無関係ではあり得ません。商品計画にも、それらをうまく取り入れて、適応を図っていく必要があります。しかし、こうした周りの動きにばかり目を奪われてウロウロしているだけでは、いつまでたっても「強い商品力」とはなりません。
かといって、自分の価値観だけにのっとった、独りよがりの商品計画でも失敗します。
ではいったい、どういう姿勢で臨めばいいのか…?
結論から言えば、自館の描く理想像に照らして時代の流行を捉え、取捨選択して、ふたたび自館の主張や個性の表現に落とし込んでいくことです。
自立喜働の時代…「商品計画における自立」とは、商品のアイデンティティー、またその奥にある自館のアイデンティティーの明確化を意味します。
そこで本節では、上記のような観点を踏まえ、商品計画について、次の5つの視点から提言します。
(1)商品計画とは、そもそも何か?
商品を計画する場面において、まず持つべき基本的考え方は?
(2)認識すべき自館の商品ポイントは何か?
それをしっかり認識しているか?
(3)今、市場にどんな変化が起こっているか?
その中で、どんな商品がヒットしているのか?
(4)商品計画のプロセスに、「人」(従業員)の問題をどう結びつけて考えていくべきか?
(5)最近多くなってきた小規模設備投資において、財務面から留意しておきたいことは?
◎商品計画の意味を考える
(1)商品計画は経営活動の要
商品計画は、マーケティング活動の中核に位置付けられます。
そしてマーケティングは、企業経営の中心に位置付けられる活動です。つまり商品計画は、経営活動の要といえます。
ホテル・旅館業における商品計画は、多くの場合、施設への多額の投資をともないます。そして一度つくった施設は、その後長期間にわたって商売のあり方を規定するとともに、そこにおける組織構造や、仕事のあり方をも方向付けることになります。
さらに設備投資は、その会社の財務構造をも、やはり長期にわたって規定することになるということを忘れてはなりません。
これらのことを、あらためて念頭に置いておくことが大切です。
単に「こんな施設をつくったら売れそうだ」という発想だけで考えるべきではありません。
(2)顧客の目から、商品のあり方を再構成する
私たちは、とかく「売り手」の発想で商品計画を考えがちです。そうではなく、まずは「買い手」(顧客)の視点で考えを進めていくことが大切です。
商売(売る・儲ける)の立場から、利用者満足(買う・うれしい)の立場へと、発想の視点を移すことです。つまり、「提供商品」として考える前に、「購買商品…お客様が買う商品は何か?」として考えることです。
例えば、「料理」という提供商品から出発するのでなく、「食事」というお客様の行為イメージから始めることです。
「施設」からではなく、過ごす「場面」や「時間」から。
「サービス」からではなく、「感激」「利便性」「うれしい」といったことから…。
そしてここで、「どんなお客様の満足を実現していくか」といった大局的な方針を立てます。
その上で、あらためて「購買商品」を提供商品要素に分解していきます。提供商品要素とは、立地環境・施設・料理・サービスです。
分解したら、さらにそれぞれの商品要素ごとに、「いかにあるべきか?」を検討していきましょう。これが特徴づくりにつながります。
(3)商品に、記号的意味を盛り込む
話題性の喚起を図るなら、意識したいのが「記号的な意味」を盛り込むことです。
「記号的意味」とは、平たく言えば「語るべき何か」です。
例えば、こんなこと…
●全客室でインターネット接続ができる
●客室ごとに、テーマとする花のイメージで、内装や家具、小物などをカラーコーディネートしている
●好みの香りと光を楽しむことのできる客室露天風呂
単に「新しい客室をつくった」「食事会場をつくった」というだけでは、話題性に乏しく、また具体的なイメージも湧きません。
このような「意味」を盛り込んでいくことで初めて、ニュース価値が生まれるのです。
最近では、テレビや雑誌の取材を促すために、ニュースリリース(マス媒体各社に対する情報発信)を行なうところもかなり増えましたが、その場合も、情報にニュース価値があるかどうかで、効果には大きな違いが出てきます。