海外のお客さまを長年受け入れているが、船で四国へ渡り「歩き遍路」に挑戦すると言ったお客さまに昨年、初めて出会った。日本人の私の友人にも歩き遍路を行ったとは聞いたことがない。友人のその親戚くらいの方に聞いたことがあるくらいだ。日本人さえなかなか行わないのに、この若い女性は1人で行燈旅館から旅立った。わずか1泊の宿泊だったので、歩き遍路に至った心境までは聞けなかったが、帰り際彼女は私に「お遍路が終わったら行燈に帰ってくる」と、言い残し宿を後にした。
約1月半後、私がもう忘れかけていた頃、彼女が遍路旅から帰って来た、折よく私がチェックインを担当した。その時の彼女の様子が旅立つ前とはとても変わっていたのにまた驚かされた。
思わず最初に出た言葉は、「どうだった?」―興味津々である。実は一生に一度できれば私も挑戦してみたいのだ。彼女から聞いた話にまた驚かされた。
「お遍路をしていた所、私の帽子に1匹のトンボが3日間止まり、一緒に歩き3日後飛び立った」と、キラキラした目で話してくれた。
「同行二人」、1人は自分、もう1人は弘法大師、身を持って体験したようだ。そんな不思議な体験をした彼女は、きっと一生この話を大切なお土産として大事にしていくのだと思い、うらやましくなった。お遍路を実行する背景を聞くのはためらわれるが、時代も変わり古いイメージも変わり、もしかしたら軽い腕試しまでは行かないまでも、私が躊躇することもなくこれも普通の旅の一つに過ぎないのかもしれないと思った。
今年の夏の終わりには南アフリカのケープタウンから来た1人の男性に出会った。「これから2カ月四国へお遍路に行く」という。2人目のお遍路さんだ。ここは思い切ってストレートに聞いてみた。「どうしてわざわざ日本にまで来て歩き遍路をしたいと思ったの?」。彼曰く、「僕は南アフリカで旅行社を経営していたが、50歳を迎え人生の折り返し地点でお店を閉めて、日本でお遍路をしたくて来た。ケープタウンで禅の修行をしている」。すかさず「東京に帰ってきますか?」と、聞くと、「終わったら大阪から帰る」。ここは残念ながら会うことは二度とない。好奇心旺盛な私はこの彼の思いを遂げた姿を見てみたかったが、いたしかたない。
旅の目的は人それぞれ。日本人もたくさんの方が、ヨーロッパに巡礼の旅に出掛けている。そう遠くないうちに「四国巡礼外国人歩きお遍路が大人気」なんて報道をみるかもしれない。