【道標 経営のヒント 287】仲間とのつながり、再び  宮坂 登


 もう二十数年も前のこと。クリエイター仲間7人で定期的に集まり、それぞれが受けている仕事に対してどんなアイデアで立ち向かっているのかを発表し、お互いに意見や批評を言い合うというようなことをやっていた。

 その場では仲間をクライアントに見立てながら、自分の考えを説明するからプレゼンテーションの練習にもなるし、不明点があれば鋭い指摘が飛んでくるから答えなければならない。そんなことを毎週末に繰り返しながら広告表現を吟味し、クオリティを高める努力を重ねていた。お金が介在しない、広告アイデアの「無尽構」である。仲間同士の助け合う気持ちが、いつの間にか政策会議的な集まりになっていた。

 うれしいのは自分が気付いていない視点からの発想だった。アイデアがまとまらずに悩んでいたときには、仲間たちからのアドバイスがどれほど役立ったことか。その場で出たアイデアを使うこともOK。それを基にまとめた広告表現が採用になったときには、みんなで祝い合うというのも取り決めだった。実に楽しい時間だった。

 そのうちの1人から久しぶりに連絡があった。彼が農業を始めるからと広告会社を辞めて九州に転居したということは知っていた。Iターンで一から農業を学び、ようやく自分の畑が持てたのは3年後のことだったという。

 もともと突飛なアイデアを言い出すことで知られていた彼は、地元の農業組合に属するといった安定志向ではなく、自分の足で関西地区のレストランや料亭を回って作物を卸す方法で商売を広げてきたという。季節ごとの作物を持ち込み、シェフや料理長に味わってもらうことで信用を勝ち取り、そこから広がる料理人のネットワークを使用して取引先を増やしてきたという。プロの料理人の舌に懸けた、とも言っていた。しかし、コロナで商売は暗転。苦境にあることが痛いほど伝わってくる。

 彼からの依頼は、もう一度あの頃の仲間で今後の方策についてのアイデア会議ができないか、というものだった。ネットでつないでいろいろな意見を聞きたいという。「農業だけにこだわらない」とも言っており、暗中模索の状況を全く違った観点から変えてみたいという。時を経た今、考えてもいなかった依頼に、遠い日々に思いをはせた。

 「分かった」と早速、当時の仲間たちと連絡を取り始めた。彼らも「ぜひ、復活させよう」と盛り上がっている。

 何が提案できるか分からないけれど、仲間として何とか良い方向に持っていけたらと思う。

 
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