英オックスフォード大学で人工知能(AI)などの研究を行うマイケル・A・オズボーン氏は今後10~20年程度で、米国の総雇用者の約47%の雇用が自動化されると指摘する。ホスピタリティ産業でいえば「レストランの案内係」「ホテルの受付係」「電話オペレーター」といった職種があげられている。
日本のビジネスホテルでは、すでにチェックイン・アウトは自動精算機で行われているし、リゾートホテルの中にはアンドロイドや恐竜が手続きをする「変なホテル」もある。ホテルのフロントスタッフが姿を消す日も、そう遠くはないのだろう。また、予約にしてもAIが宴会場の空き状況や接客係のスキルを適切に判断し、団体宴会や会議を効率よく受注できるようになれば予約係がいなくなっても不思議ではない。
だが、ほとんどの仕事をAIがこなせるようになったとしても、「人が人をもてなす」という接客係の仕事だけはなくならない可能性が高い。
いま、社会には人間と話しているかのような錯覚さえ覚えてしまう賢いロボットが続々と登場している。ソフトバンクのペッパー君はすでに多言語対応ができる駅員として活躍しているし、日帰り入浴施設でも来場者と気楽にお喋りする案内係として人気だ。昔のロボットはあらかじめプログラミングされた質問にしか答えられなかったが、最近のAIは軽い冗談さえも飛ばすらしい。
試しに、アンドロイドのスマートフォンに搭載された会話形式の検索サービス「Googleアシスタント」に話しかけてみた。「オッケー、Google。ジョークを言って」
答えは「こんなのはどうでしょう?」と前置きした上で「旅の出発地にピッタリな島があるのを知っていますか?どこかって?」「イースター島です。いいスタート、だから」…。寒い。だが、たとえ親父ギャグでも笑い声のSEとともに答えが返ってくると、何だか楽しくなってくる。
ジョーク以外でも「眠いなあ」と言えば、「私は24時間働けますが人間は眠らないと体を壊しちゃいますよ」と優しく体を気遣ってくれる。もしかすると「逆に、気を遣ってしまう接客係よりは、気を遣わずに済むロボットの方が気楽でいい」という顧客がいるかもしれない。
AIに話しかけるだけでテレビがついたり、カーテンが自動開閉したりする時代である。いま以上にAIが日常生活に入り込んでくれば、人が人にモノを頼むことも少なくなり、いずれ人はモノの頼み方自体を忘れてしまうこともあり得る。
その一方で、顧客に頼まれなくても推察力と洞察力を駆使して顧客欲求に応えるのが旅館の接客であり、もてなしの真髄でもある。仮に、顧客が頼み方を忘れてしまったとしても構わない。接客係は日本の伝統文化を踏まえつつ、人対人としてきっちりともてなしてくれるはずだ。だから、たとえペッパー君が大人になったとしても接客係の仕事は決してなくならないのだ。多分。