前回までの「観光と福祉」というテーマから一転して、今回からはしばらく、「宿泊関連研究部会」(以下、「JAFIT宿泊部会」という)のメンバーでリレーさせていただく。
筆者は、連載第2回(:ホスピタリティ研究のフレームワーク)で、ホスピタリティ研究に関して説明をさせていただいた。そこでも軽く触れたが、観光学領域における「宿泊」を対象とした研究は、他国と比較してわが国では少し異なる展開をしてきている。
宿泊に関連した研究は、まず米国を中心とした「ホスピタリティ産業論」が大きな存在感を持っている。というよりもむしろ、米国ではいわゆる「観光学部」といった存在は、日本のそれとは大きく異なっており、”Hospitality Management”の研究こそが主流となっている。そして、そこでの中心的な研究対象が宿泊産業ということになる。
米国でもかつては、”Hotel Industry”を対象とした研究と教育が主軸であったが、InnやMotelといった新しい業態が出現したことで、これらを包含した”Lodging Industry”に移行した。そしてさらにMICEやEntertainmentといった業種も包含した”Hospitality Industry”を対象とした研究、すなわち”Hospitality Management”に収斂してきたという経緯がある。
アジア各国や中東では、こうした米国流の考え方が幅広く採用されてきた。実際、大学が経営するホテルがある点などは、まさにそれを象徴しているといえよう。大学のスポンサー企業がホテルを経営しているケースも含めると、香港理工大学、マレーシアのサンウェイ大学、ベルジャヤ大学、アラブ首長国連邦のエミレーツ・アカデミーなど枚挙にいとまがない。もちろん日本の観光系大学で、ホテルを経営しているところは存在しない。
とはいえ、わが国にはわが国の特性もあり、なんでも他国に合わせればいいというものではないのは当然である。昨今のわが国では、インバウンド増大によるホテルの新設ラッシュがしばしば話題となっているが、それ以外にも民泊の出現のように世界的な問題となっていることは国内でも同様に生じているし、一方で関連する事象に目を向けると、クルーズトレインの隆盛など日本独自の状況も出現してきているのは興味深い。
わが国における宿泊関連研究の特徴としては、
・温泉の存在感の高さ
・そもそも生活文化の独自性が高かったことにより出現した旅館という他国では見られない業態の存在
・鉄道会社の宿泊事業に対するコミット、すなわち鉄道会社によるホテルチェーンの展開とクルーズトレインの開発
といった点が挙げられよう。
次回以降では、JAFIT宿泊部会のメンバーによる、こうした話題に対する検討を展開していく。
徳江准教授