船で巡るウエスト・コーストの旅も、いよいよ終盤。最終寄港地は、メキシコ・エンセナダ。ここバハ・カリフォルニア州には、「バハメッド」という新たな料理のトレンドがあるらしい。これは、州名と地中海の略メッドを合わせた造語。地中海とほぼ同緯度で気候が似ており、いずれも海の幸が豊富なことから、従来のメキシコ料理に地中海料理の要素を取り入れた、革新的な料理が生まれたのだ。トレンドの中心ティファナは、元々犯罪率の高い危険な街とされていたが、オシャレなバハメッドレストランが急増、地ビール産業も盛んになり、それらが一大ムーヴメントとなって街の雰囲気をも変えてしまったという。
行ってみたかったが、車で1時間半かかるので断念。でも、せめて本場のメキシコ料理を食べて帰りたいと、あらかじめネットで調べておいた、Mariscos Bahia de Ensenadaというシーフードレストランへ。
まずは、メニューと共にトルティーヤ・チップスとトマトのサルサが運ばれて来た。お通しのような感じだ。サルサとはスペイン語でソースという意味で、この生トマトのサルサは、正確には「サルサ・クルダ」(生のサルサ)、「サルサ・メヒカーナ」(メキシコのサルサ)、「ピコ・デ・ガヨ」(雄鶏のくちばし)などと呼ばれるそうだ。メヒカーナは、トマトの赤、玉葱の白、青唐辛子と香菜の緑がメキシコの国旗を連想させるからで、雄鶏のくちばしとは、それにつつかれたように感じるぐらい辛い、という意味なのだとか。確かに辛いのだけれど、クセになる味。
トルティーヤとは、トウモロコシの粉を練り、薄い円形に伸ばして焼いたもの。これを三角形に切って揚げたチップスにサルサを載せて食べれば、やめられない止まらない。このトルティーヤを蒸したものに、肉や野菜を包んだのがタコスだ。軽食を意味するスペイン語Tacoの複数形で、メキシコのファストフード代表とも言える。
トルティーヤを円形のまま揚げて具を載せれば、トスターダになる。筆者の好物セヴィーチェは、このスタイルで注文。生か軽く茹でた魚介類とトマトや玉葱などの野菜を、柑橘類の果汁でマリネしたセヴィーチェ。南米では一般的だが、本来はペルーの郷土料理だ。程よい酸味とピリ辛加減が、これまた後を引くおいしさ。上質なワインの産地として知られるエンセナダのローカルワインとも、相性もバッチリ。
日本では考えられない廉価で、地元産活ロブスターなども堪能した後、店内でクルーズのスタッフにバッタリ! ノブ・松久氏プロデュースの日本料理店「シルクロード」の末村博シェフ、同店寿司バーの東幸輝シェフのグループだ。船内で最も予約が取りづらい人気店のシェフが利用する店を選んだのって、スゴイでしょと、同行者たちに鼻高々な筆者であった。
こうしてさまざまな地域の食文化に触れられる船旅、次はどこへ行こうかな?その前に、貯金しなきゃ!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。