先進7カ国（Ｇ7）気候・エネルギー・環境相会合が4月中旬に札幌市で開催された。エネルギー安全保障を確保しつつ、脱炭素と経済成長の同時達成、資源効率性の向上、生物多様性の保全の実現などを統合的に追求するための議論が行われ、共同声明が公表された。この国際会合についてはすでにマスメディアで全国的に報道されているが、開催地の札幌では環境・エネルギー関連のさまざまな市民向けイベントが開催された。
テレビドラマ「北の国から」の脚本家として知られ、富良野市で環境教育などに取り組んでいる倉本聰氏は「文明の墓場」と名付けた展示を札幌ドームで開催された環境イベントに出展した。自動車や携帯電話や衣服類などのゴミを弔う葬式のような空間を演出し、線香の香りを漂わせた。倉本氏は「新しいものが出てくると、前のものは捨てられる。ゴミには誰も涙を流さない。人間が便利さや豊かさを追求してきたことが環境問題につながっている」と述べている。
実は倉本氏は今回の国際会合に向けたメッセージを起草し公表しており、会合前日に開催された歓迎レセプションの際にはＧ7の閣僚にそのメッセージが紹介されている。
倉本氏のメッセージの要約は次の通り。
「あなたは文明に麻痺（まひ）していませんか／石油と水はどっちが大事ですか／車と足はどっちが大事ですか（中略）あなたは本質を忘れていませんか（中略）あなたは結局何のかのと云いながら／他所から奪いとったエネルギーの中で／我が世の春を謳歌（おうか）していませんか／環境問題は全てそこから発しています／地球環境を正常に戻すには／今の豊かさを少し犠牲にして／時代を戻すしか方法はありません／文明社会というこのスーパーカーは／ブレーキとバックギアをつけ忘れました（中略）我々人類は今立止り／地上の植物、けものたちにならい／謙虚につつましく生きましょう／我が世の春を謳歌して、豊かさを求めるのは止めましょう／環境問題を解決するには／その道しかないと考えます」
倉本氏は閉鎖されたゴルフ場に植樹して森に戻す活動も続けており、環境問題を議論する札幌での国際会合の機運醸成を担う実行委からの要請でメッセージを起草した。倉本氏は東京生まれで現在88歳であるが、1977年に富良野市に移住している。豊かな自然のある北海道を愛しておられ、環境と共生した北の大地ならではの生き方を重んじておられる。北海道新聞記者の取材を受け、「かつて北海道独立をテーマにしたドラマをつくろうとしたことがあり、世界から尊敬される哲学を持った国になるべきだと思った。素朴な、動物に近い北海道の生き方や哲学を『北海道憲章』みたいなものにしてつくるべき」と語っている。
北海道は生物多様性を含めた自然資源・自然資本の回復を図るネイチャーポジティブ（自然再興）に最もふさわしい大地である。地域の民産官学の自律的協働によって地域資源を大切にしながら、ホストとゲストが共に幸せを感じることのできる適正な地域観光システムの構築を期待したい。
（北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授）
