日韓関係の泥沼化がより深刻な状態になっている。昨年10月末に韓国最高裁判所が元徴用工訴訟で新日鉄住金(現日本製鉄)に賠償を命じる確定判決を下してから事態が深刻化した。日本は政府間協議を要請したが、韓国は回答せず、その後の協議も不調に終始した。
今年7月に日本は貿易管理で半導体材料の韓国向け輸出規制の強化を通達し、韓国は輸出規制強化の撤回を要求。世界貿易機関(WTO)一般理事会で日韓代表が応酬したが解決できないままに、8月には日本が韓国を優遇対象国から除外する政令改正を閣議決定した。
それに対して、韓国の文在寅大統領は日本の輸出規制強化は経済報復だと非難して、日韓関係の泥沼化が本格化している。
韓国政府は、8月22日に日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を日本側に通告した。この協定は、北朝鮮の核・ミサイルに関する情報共有が主な目的で米国を加えた「日米韓安保体制」を象徴する合意の一つであった。韓国によるGSOMIAの破棄通告直後に、北朝鮮は日米韓の連携の乱れに乗じて短距離弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射している。
日韓関係の泥沼化は、北東アジアにおける安全保障体制の不安定化を招来するだけでなく、日韓の観光交流の鈍化にもつながっている。韓国ではすでに日本製品の不買運動が展開されているが、日本への旅行キャンセルも相次いでいる。
昨年の訪日外国人客数は3119万人で、第1位は中国からの838万人、第2位が韓国からの753万人でインバウンド全体の約4分の1を占めていたが、すでに日韓関係の悪化に伴って韓国からの訪日客が減少している。
韓国と北海道を結ぶ航空便数は、8月1日時点で週に116便であったが、10月1日時点では6割減の週47便に落ち込む見通しが予想されている。航空便数の大幅減少は日韓観光交流の大幅減少につながるので国家間の関係改善が不可欠だ。
米中2大国が覇権争いを強めており、世界全体が不安定な政治的・経済的状況に陥っている。日韓関係も米中2大国の動向に左右されやすい面があり、北朝鮮という不安定要因が絡んでいるために安定化への道は容易ではない。さらに韓国の文在寅政権については、大統領の最側近で次期大統領候補とみなされる政権幹部の不祥事に対する国民の反発が強まっているために国内政争の激化が予想されており、今後の動向に注目している。
国際観光は世界で生じる諸々(もろもろ)の事態の影響を受けやすいために「fragile(脆い、壊れやすい)」面があると言われている。その一方で国際観光は「平和へのパスポート」であり、観光産業は世界平和に貢献できる「平和産業」と言われている。
観光産業は諸々の困難を克服しながら「世界平和への貢献」をアピールし続けるべきだ。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)