【私の視点 観光羅針盤 166】観光による日中関係の良好化 北海道大学観光高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 今年は日中平和友好条約締結40周年であり、10月下旬には安倍晋三首相の訪中が予定されている。

 日本の民間非営利団体「言論NPO」と中国国際出版集団は、日本と中国で行った共同世論調査の結果を先日公表した。日本に良い印象を持つ中国人は昨年比約11%増の約42%で、2005年の調査開始以来、初めて4割を超え過去最高となった。

 日本政府が尖閣諸島を国有化した翌年の13年には、中国で日本に「良い印象」を持つ人は約5%まで落ち込んでいた。そういう意味では5年の歳月を経て、日本に好印象を持つ中国人が4割を超えたのは極めて大きな変化である。

 このような中国人による対日意識の改善は、明らかに近年の訪日客の増加による日本人との交流増加が影響している。

 昨年の訪日外国人旅行者数は2869万人であったが、そのうち中国人は735万人で全体の約25%を占めており、日本での観光旅行を通して日本に対して好印象を得たようである。一方で、中国に良い印象を持つ日本人は約13%にとどまっていて、好対照をなしている。

 中国で日本に「良くない印象」を持つ人は約56%であるが、日本で中国に「良くない印象」を持つ人は約86%にのぼっている。日本人が中国に対して良くない印象を持つ理由は、尖閣諸島周辺など日本の領海や領空への侵犯や、歴史認識を巡る問題などにある。また日中間で領土を巡る軍事紛争が起きる可能性について、「起こると思う」は、日本側が約28%、中国側が約56%である。

 10月中旬に米国株の急落が生じて、世界金融市場が大きく動揺している。トランプ米政権の保護主義的な通商政策は中国との間で制裁と報復の応酬を招いており、世界経済の土台を傷つけつつある。米中経済戦争は世界経済に大きな影響を与えているが、一方で日本は大きな漁夫の利を得るチャンスでもある。米中経済戦争の結果として、米国の対中輸入の一部が対日輸入に振り替わる可能性があるからだ。

 米中経済戦争が激化する中で、中国人による対日意識改善が明らかになったことは極めて重要である。しかも日本に「良い印象」を持つに至った理由が日本観光の結果であるということはもっと高く評価されるべきだ。

 観光は本来「文化的安全保障」の役割を果たすことができる営為であり、軍事的安全保障と同様に評価されるべきだ。私は今年5月末に中国・大連で開催された「中日観光大連ハイレベルフォーラム」に参加する機会があった。その際に日中観光交流は17年に両国合わせて1千万人に達したといわれており、今後のさらなる観光交流の隆盛化が期待されている。日本政府は今後、日米同盟だけでなく、日中関係の良好化にも腐心すべきだ。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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