特別感のある食、体験の訴求を
シンガポールと群馬県高崎市が舞台の映画「ラーメン・テー」(邦訳「家族のレシピ」)が昨年公開された。ラーメンとバクテーという両国のソウルフードを通じ家族の絆を取り戻す物語で、皆が食通と言われ、訪日時も食に期待するシンガポールと、日本を結ぶ映画らしいテーマだと思う。
シンガポールからの訪日客数は2012年から右肩上がりで、18年は過去最高の43万7千人となった。この数字は同国の人口からは大きなもので、毎年10人に1人超が訪日する計算となる。リピーター率が7割(観光庁2017年訪日外国人消費動向調査、以下同じ)、個人旅行(FIT)が9割で成熟市場とされる。ヘビーリピート率も注目で、訪日10回以上の人が18%を占め、近隣諸国と比べても著しい。
訪日旅行での期待で最も高いのが「日本食」(71%)でキラーコンテンツだ。和牛などのほか、桃など熱帯にない高品質な果物も人気。他に市場特徴としては、オンライン購入率が高く(82%)、旅行に役立った情報収集源で口コミサイト、SNS、ブログの比率が高いことがある。日本滞在中の平均支出額が近隣国の訪日者と比べて約2~3万円高いことも挙げられる(前出調査で、シンガポール人の支出は17~18万円)。宿泊支出額も同様の傾向だ。
他方留意すべきは、シンガポールでは高級層を含む和食店の多さが目を引くほか、近年、日系小売(日本食材スーパー)の競合進出、低価格化も見られるところ。シンガポール人は当地にいて本物同様の日本食に触れ、目と舌が肥えつつある。
この市場で誘客上、何が重要だろうか。まず、食では希少・差別化をいかに図って維持できるか。ツアーや宿泊先でも食事の単調さの回避は重要なほか、食の魅力頼りで容易に目的地として客を今後も呼べるかは見極めが必要となりそうだ。「日本のあちこちが和牛をうたう。北海道のカニ、北陸、山陰のカニと言われても私たちには同じカニのよう」という声も聞く。
また、シンガポール人は価格に敏感でもあり、ごく普通の交通、宿泊には節約する傾向があると言われる。他方、特別感のある食事や体験ものにはお金を使うとされ、付加価値のある体験型商品などの充実で訪日上級者の満足度を上げ、消費額も伸ばせそうだ。
コンテンツの磨きには「非日常性」の視点もヒントとなる。熱帯南国の小国で、山のない海辺の中華色がある国にとって「非日常的」で導かれるものは多く、桜、社寺、庭園などに限らない。四季がないため、同じ場所でも違う季節で訴求が可能だ。また、インスタ映えを好む彼らへは「思い切った掛け算」での演出、例えば、雪と和装、雪と花火などが響くことがある。
デジタル手段の活用も望まれる。旅行会社に頼らず自ら旅程を組むシンガポール人に向け、交通アクセスまで含めた観光詳細情報を日本側からオンラインで提供できるか。また、シンガポールでは着地型商品は直接個人もオンライン購入できる環境が進む。情報発信にとどまらず、手軽に購入へとモバイル予約・決済を可能とすることも鍵となる。