ここ2回は料理について触れた。料理の品質に関しては、なお考えるべきこともあるが、「出口」と「入り口」で留意したいことをお伝えしたところで一段落とし、次の対象分野に移りたい。
(5)サービスの品質
人的サービスの向上は、施設・設備や料理に比べて小さなコストで実現でき、その割には大きな効果が期待できる。ただしこの分野で磨き上げるべきことの幅はたいへん広く、また奥も深い。接客サービスの心構えや技術については、小社発行の「ホテル・旅館のサービスマニュアル」でつまびらかにしている。また「接客研修eラーニング講座」という教材も用意しているので、よろしければぜひご利用いただきたい。
さて、そうした広範な技術知識は別として、ここではポイントとなる着目点についてお伝えしようと思う。
サービスの評価を効果的に高めるにはどうしたら良いか?―それは「好印象をつくること」と「不満をなくすこと」にある。
???…そんなの当たり前では?―と思われるかもしれない。言いたいのはつまり、「プラスとマイナスの両端」を重点的に管理するということだ。その中間はどうでもよい、というわけでもないが、力点を置く重要度は相対的に低い。その理由は、アンケートやネット上のクチコミに書かれていることの内容を見れば明らかだ。接客サービスに関して、満足度の高いお客さまの多くは「何か」に好印象を持ち、反対に満足度の低いお客さまの多くは「何か」に不満を抱いている。その具体的な「何か」をつくり、また撲滅すること―これが要諦である。そしてこの二つは、それぞれサービスにおける「攻めの品質向上」と「守りの品質向上」として重点を置くべき課題につながる。そこで以下、この二つについて展開していきたい。理由あって順序は変わるが、まず「守り」から…。
(ⅰ)守り=不満をなくす
「遅い・忘れた・間違えた」―これが旅館の三大クレームであると、小社では昔から言ってきた。統計をとったわけではないが、今でもまず当てはまると思う。つまりこの三つをなくせば、大半のクレームは防ぐことができる。いずれもほとんどサービスに関わるものである。ではこれらを防ぐには―言われたご用件の復唱、間違いのない情報伝達、報告、確認といった「業務の基本ルール」を徹底すべし。またこうしたことを確実に行うための「意識と緊張感」を持つべし…ということになる。これらは改めていうまでもないことだが、とはいえ、それが思い通りにいかないので、こうしたトラブルが後を絶たないことも事実であろう。
そしてもしかすると、館内にお客さまが急速に戻りつつある今まさに、このような問題の多発に頭を抱えている経営者や幹部も多いのではないだろうか。せっかく需要が上向いてきたところでそんな状況では、評価を下げる原因を作っているようなものだ。将来の評判に影を落とす「マイナスの遺産」として、新たに背負いこむことにもなりかねないので、対応が急がれる。先ほど「守りから」とした理由もそこにある。
そこで次回は、この問題を防ぐ方策について、もう少し掘り下げるところから考えてみたい。
(リョケン代表取締役社長)