【旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 149】新型コロナウイルスへの経営対応36 原理原則1 市場対応 佐野洋一


 前回、「『…頼み』の経営から抜け出す」というテーマで、そのために行うべき「原理原則」となる五つの課題を挙げた。

 ●市場開拓―市場アプローチのやり方を工夫する。

 ●顧客確保―お客さまを引き寄せ、つなぎとめる。

 ●品質向上―劣化を放置しない、磨きをかける。

 ●情報集め―新しい情報を常に仕入れる。

 ●人心の喚起―緊張感と意欲をみなぎらせる。

 ●高付加価値化―粗利益率を高める。

 ●収益性の確保―損益分岐点を引き下げる。

 では、コロナ禍の厳しい状況がなお続く今、これらに照らしてどんな取り組みが考えられるか―しばらく、これに沿って考えていきたいと思う。今回はまず「市場開拓」について―。

 市場開拓とは、これまでと異なるターゲット市場を切り拓くことである。ターゲットというと、「どういう人たち」―つまり属性(年齢・性別・居住地など)だけを考えがちだが、そこにもう一つ「どんな利用目的・場面」という要素をかけ合わせてみると、幅は一気に広がる。誰でも、旅館に泊まる理由はいつも同じではないのだ。

 下図は、数年前に弊社で発行した「旅館の経営指針『新価値創造の時代』」の中で提案した「ターゲット・マトリックス」というフレームである(入れ込んである要素は「例」であり、また当時のままである)。

 タテ・ヨコ要素の交わるセルごとに「ここを広げることができないか?」と考えてみるのだ。一見分かりきったことのように思えるかもしれないが、やってみると、これまで見過ごされてきた「市場の可能性」が発見できることが多い。

 今は言うまでもなく、市場の動きが限られている。コロナ以前に団体利用が大きな比重を占めていた旅館はもとより、個人客主体でやってきた旅館でも、売り上げ維持のためには新しい市場を切り拓く必要に迫られている。そういう今、改めてこのフレームを手掛かりとしていただきたい。

 ところで、「ターゲットを変える」には三つの方向がある。「広げる・移す・絞る」である。順当な考え方は「広げる」だが、投入する力が薄まって逆効果ともなりかねない。エリアなどは「移す」ことで「連作障害」を避けて成果を生むことがあるし、いろんなターゲットを総花的に追いかけるよりも、あるターゲットに「絞る」方が効果的な場合もある。

(リョケン代表取締役社長) 

 
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