前回はアメリカコロラド州の温泉巡り、州の南に位置するパゴサホットスプリングスのACCESSIBLEの話題でした。日本でいう“バリアフリー温泉”です。
パゴサホットスプリングスは世界で最も深い地熱層から湧きだしているとギネスに登録がある源泉から、大小23カ所の温泉プールに温泉が引かれてあります。アメリカでは基本的に水着着用。プ―ルには浮輪を付けた子供が遊ぶエリアもありますが、ゆっくりと寛ぐことができる大人エリアもあります。
ACCESSIBLE専用ゲートを利用するお客さんは、子供が遊ぶ一番大きなプールに常設されているチェアーリフト(機械式の入浴介助機具)も使いますが、大人エリアでも入浴ができます。ただ、段差だらけですし、チェアーリフトもない。
ACCESSIBLEルートを案内してくれた女性スタッフのシェリーは、「うちのスタッフは本当にフレンドリーですからね。前に、足元が不自由な65歳のご高齢のお客さんの姿を見て、男性スタッフが相談し、結局、男性3人が抱えて大人ゾーンの温泉に入ってもらったということもありました。そのお客さんをサポートした男性スタッフは、とても嬉しそうに、楽しそうに、私にその話をしてくれました。きっと彼らにとっても、いい経験だったのだと思います」と、彼女自身も満面の笑みで語ってくれました。
日本でも、貸し切り風呂や客室風呂に機械式の入浴介助機具の設置も、まだまだ少ないですが増えてきました。そして、佐賀県嬉野温泉では、2人の入浴介助員が付き5千円で入浴介助制度もあります。静岡県東伊豆町でも、徐々に、温泉トラベルヘルパーによる入浴介助も増えています。
ただ、シェリーの言う「フレンドリーだから」というものとは、少し異なります。
コロラド州政府観光局の日本人の女性スタッフは、ACCESSIBLEに対して深い理解があるアメリカは、退役軍人へのケアが背景にあると分析していました。アメリカには傷病軍人がたくさんいて、義足や義手の無料提供等も行っている。さらに、彼らの癒やしの場としてフィッシングやスキー等の自然の中でのセラピーも積極的に行っている。
ロッキーマウンテンナショナルパークには彼らが動けるように傾斜がないハイキングコースもある。さまざまなアウトドアやスポーツを通して、サポートがある。
アメリカのそうした背景を日本にそのまま当てはめることが難しいですが、2020東京オリンピック・パラリンピックに向け、日本が世界に誇る温泉のバリアフリー化について考えるタイミングなのかもしれません。それは、ハード(旅館)のバリアフリーではなく、むしろ、ご高齢の方も体が不自由な方も歓迎というハート(心)のバリアフリーについてです。
(温泉エッセイスト)