1.「にっぽんの温泉100選」から認められること
観光経済新聞社が1987(昭和62)年から実施・発表している「にっぽんの温泉100選」は、さまざまな旅行商品の企画・販売を通して、一般旅行者と各温泉地とを結ぶ役割を果たす、国内大手・中堅旅行会社の投票によって順位を決めているもので、近年はネットエージェントも参加し、利用客のニーズをより反映するものとなってきている。
全国各地の温泉地と旅館についての人気調査は種々行われているが、ほぼ同様な方法で30年にわたって継続して実施されている「100選」は、時代の変化、人気の推移を知ることのできる貴重な資料となっている。「100選」は旅行業者の視点からみた人気調査であるが、旅行者が直接選んだものより、利用客一般の動向と評価をより反映している面がある。
近年実施されることの多い、インターネットを利用した消費者調査の結果と対比してみると、「小規模な」「最近話題になったところ」などに関連する温泉地事例を除くと、両者の一致度がかなり高いことが認められている。
まず、第1回から第30回の結果を5年ごとに6期に区分し、各期のベストテンを示すと次の通りであった(表1)。各期のベストテンは、各年順位を得点として1位1点、以下10位10点とし、合計点の少ない順に配列したものである。
なお、92年に第1位となって、2001年まで連続第1位を占め、02年以後「名誉入選扱い」とした古牧温泉は、他の温泉地と同様に扱い難いことから以下の分析からは除外している。
また、各温泉地の宿泊施設規模と構成とによって「温泉地類型」を次のように分類している。
A=「大規模施設中心型(客室数100以上の施設が3割以上)」、B=「総合施設型(大規模施設から中・小規模施設までで構成)」、C=「中規模施設型(客室数100未満60以上の準大型施設から小規模施設までで構成)」、D=「小規模施設型(60未満の小規模施設から構成)」―のいずれに該当しているかを示している。
2.「人気温泉地」の推移
各期の人気温泉地と時代的特徴をみると、第1期はバブル経済全盛期で、国内観光では招待・接待旅行が活発となり、高品質・高価格による高級志向がみられる。温泉地には豪華・大型施設が次々と誕生した。これに続く第2期になると、バブル崩壊が始まって「価格破壊」が流行となり、旅行にも低価格商品が登場するようになる。
しかし、第1、2期を合わせた10年間は人気温泉地の順位変動は少なく、施設類型ではA型(大規模施設中心型)とB型(総合施設型)が主流となっていた。第3期になると、人気温泉地には大きな変化がみられようになった。いくつかの新しい温泉地が登場するようになり、草津や由布院、さらに黒川がベストテンに加わるようになった。
その背景には生活様式の変化を背景として、旅行形態が団体型から個人型へと変化してきたことがあり、興味と関心の多様化、健康への関心による温泉への人気の高まりも関係している。第4期以降に、施設類型D型(小規模施設型)が上位に登場するようになった理由には、グループや家族での旅行に好まれやすい小規模施設が旅行業者にとっても重要な宿泊業者として認識されるようになったという状況変化も大きな意味をもつものである。
3.「躍進型」と「伝統型」
第4期以後になると、新しい温泉地を意味する「躍進型」と、以前から支持されてきた「伝統型」とでベストテン上位を2分するようになり、00年代に入ってからもほぼ同じ状態が続いている。
「躍進型」の代表は草津温泉であり、03年(17回)に第1位となって以来、14年連続してその地位にある。草津温泉が江戸期以来、日本、特に東日本の横綱格温泉であることは周知のところであるが、宿泊施設が大型・豪華であることが重視され、温泉地としての雰囲気などは二の次だった時期には必ずしも高く評価されなかった。
草津温泉がランキング50位以内に入ったのは92年(第6回)、ベストテン入りは99年(第13回)のことで、これらの年月の間に温泉に対する見方はかなり変化してきたのである。
人気温泉地推移に「躍進型」の登場が大きく影響してきたことは言うまでもないが、「伝統型」の頑張りが日本の温泉を支えてきたことも事実であり、特に登別と指宿の両温泉は、第1回から第30回までの30年間、連続してベストテンを維持し続けている。
登別温泉はまた、施設類型A型(大規模施設中心型)に該当する、ほとんど日本唯一の観光地でもあり、その意味でも特筆される存在である。
登別・指宿に次ぐものとしての道後、和倉、別府、有馬、城崎、下呂、雲仙なども、多くの人たちから長い間にわたり高く評価され続けている、日本を代表する温泉地であると言うことができる。
http://www.kankokeizai.com/koudoku/170101/01.pdf