一般に、「日本型組織」においては実質的に業務遂行に関する権限が現場に移譲されてきた。しかし、組織としてのガバナンスを求める社会的な要請は高まっている。
バス事業者も例外ではない。事故のたびに再発防止策を社会や監督官庁に示すことが求められ、現場で守られるべき決まり事は継ぎはぎだらけで複雑となる。特に乗合バス事業者の場合は、地域独占的に事業を行っており公益性も高いため、その決まり事を完璧に守らなければ、ささいなことでも市民からの苦情につながる。
従来のような「現場任せ」では乗り切れず、やむを得ず本社部門が「●●するべからず」を文字化した「マニュアル」を現場に押し付ける。しかし、もともと日本型組織の本社部門に「管理」機能はあっても「オペレーション支援」という機能を持たないから、「べからず」集を押し付けられた現場としてはストレスが増える一方である。
もっとも、「昔の現場はよかった」と嘆くことでは本質的な解決につながらない。明文化された業務マニュアルを遵守することで品質を標準化する動きは否定されるべきではない。これまで述べてきたようなバス乗務員に対する人事評価制度を拡充させ、一人一人の乗務員の業務内容を点数化することなしには、社会の要請に応えることは困難だろう。
とはいえ、現場で働く者が「管理されている」「会社の『コマ』扱い」と感じるようでは、生産性に影響するうえに離職率も低下しない。
バス事業者の本社部門に、「管理」機能に加えて「オペレーション支援」という機能を加えることが必要だ。より前のめりの姿勢で、業務のあり方を現場のメンバーと一緒に考え、環境を整えるというミッションを、本社(「運輸部」など)に追加するのである。
また、ここまで述べてきたように、現場の管理者(営業所長~主任クラス)をミドル・マネジメントとして処遇し、「人を使う」立場としての規範やテクニックを、より積極的に教育することも重要な点である。
(高速バスマーケティング研究所代表)